国際会計基準の浸透と監査基準改革

論文2018年6月7日

野村證券エクイティ・リサーチ部 野村 嘉浩

目次

  1. I.はじめに
  2. II.IFRSの浸透と比較可能性の問題
    1. IFRSの浸透
    2. 比較可能性の問題
  3. III.日本における監査制度改革
    1. 監査制度改革の国際的な流れ
    2. 監査制度改革の日本での議論
  4. IV.おわりに

要約と結論

  1. 日本企業に国際会計基準(IFRS)の任意適用が着実に浸透している。2018年5月末日時点の野村の調べでは、18年3月期までの適用企業数は158社に達した。さらに21年3月期までに37社が積上がる予定で、IFRS200社時代の到来が間近である。こうした中、IFRS適用企業の表示する段階利益にさまざまなばらつきが散見され、投資家が企業間比較を行う上で、組替え調整の負荷が上昇している。各企業の経営者が、さまざまな定義でさまざまな呼称を用いた主要業績指標(KPI)を表示し始めており、投資家は、企業の意思を的確に把握する必要性が高まっている。
  2. 組替え調整のケース・スタディとして、輸送用機器3社を中心に、IFRS、米国基準、日本基準の比較調整事例を取り上げた。持分法損益の表示や有価証券評価差額の会計処理が3基準で異なっていることから、営業利益、税引前利益等の段階利益に関する単純比較が難しい状況であることを確認している。
  3. 日本においてIFRS強制適用の議論の展開は時期尚早であろうが、監査基準については、国際的な流れに沿う改訂が予定されている。「監査報告書の透明化」と称するこの改革の軸は、監査報告書に、監査人が財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項(KAM)を、監査意見と区分して記載する長文型監査報告書(EAR)の導入にある。欧州連合で17年から、米国で19年から導入されることを受けて、日本でも21年3月期からの導入が予定されている。
  4. これらの動きの根底には、コーポレート・ガバナンス改革の議論がベースにあろう。IFRS適用の浸透による自由度の高い表示・開示実務の定着や、リスク情報・ガバナンス情報が豊富に記載される新たな監査報告書を題材として、投資家と企業(経営者や監査役等)が対話を活性化させ、健全な相互牽制機能を構築する動きの進展が、今後の資本市場の更なる発展のカギとして期待されている。