ガバナンス、リスク管理、コンプライアンス | 社外取締役インタビュー

コーポレート・ガバナンスの追求と企業戦略の監督という職務の遂行に向けて

社外取締役 マイケル・リム(Michael Lim Choo San)
野村ホールディングス社外取締役、Nomura Singapore Limited チェアマン、Nomura Asia(日本を除く)監査委員長。公認会計士として1992年からPriceWaterhouseCoopers、Singaporeマネージング・パートナー、その後、1999年から2003年まで同社エグゼクティブ・チェアマン。現在、Land Transport Authority of Singapore チェアマンおよびSingapore Accountancy Commission チェアマン、Accounting Standards Council, Singapore チェアマン。

社外取締役のミッションについてどのようにお考えかをお教えください。

私が野村の社外取締役に招かれたのは、専門である財務や会計、監査、コーポレート・ガバナンス、規制関係の分野から取締役として会社を見てもらいたいということかと思います。社外取締役は、一義的には、法で定められた責任を全うすることが第一であり、私の専門分野での貢献を期待されていることは十分に承知しています。しかし、現実の取締役会の場では、社外取締役は、必要に応じて、その専門に縛られることなく、意見や質問を述べることも多いでしょう。事実、野村の社外取締役は、経歴も専門性も多様なメンバーが揃っていることもあり、取締役会では、多岐にわたるテーマについて、熱心な議論が展開されています。

昨年、「日本版スチュワードシップ・コード」が策定され、コーポレート・ガバナンスの強化が進んでいます。日本のコーポレート・ガバナンスについてどのようにお考えですか。

日本版スチュワードシップ・コードが2014年2月に策定されるなど、日本は良い方向に向かっていると考えています。株主をはじめとするステークホルダーとのコミュニケーションが進むほど、企業や社会全体にとってプラスの効果がもたらされるでしょう。また、2015年6月から適用が開始された「コーポレートガバナンス・コード」にも期待しています。これら2つのコードにより、日本企業のガバナンスはさらに進化を遂げ、その取り組みがグローバル企業のベンチマークとなる日も近いでしょう。コーポレートガバナンス・コードは、執行サイドだけでなく、執行部門を監督する取締役会に対しても適用されます。実際、すでに海外では、取締役会メンバーによる相互評価や、取締役会自体の監視機能評価などが導入されており、一連の評価結果については、取締役会で十分に議論され、具体的なアクションに落とし込まれます。最近では、企業戦略や後継者育成に関してより議論が必要であるというような意見を頻繁に耳にします。いずれにしても、取締役会メンバーの多くは、こういった評価プロセスを、フィードバックを得られる正当な機会であり、取締役会のガバナンスの向上、より良いコーポレート・ガバナンスに向けた取り組みであると、前向きに捉えています。なお、委員会制度については、指名・報酬・監査の三委員会以外に、リスク管理委員会や設備投資委員会、CSR委員会などを置く企業もあり、各社がそれぞれの会社に応じた委員会を組織することも必要と考えています。

野村は2015年に設立90周年を迎えます。100周年に向けて、企業価値を高めるために重要なことは何だとお考えですか。

シンガポールでは、安定政権のもとで、長期計画を策定することが常となっており、特に政府関連の組織においてはその傾向が顕著です。長期計画を立てる場合、ビジョン、ミッション、戦略、そして企業価値を考える必要がありますが、定期的にその見直しが必要となります。それを踏まえると、野村のビジョンとでもいうべき、「創業の精神」である顧客第一の精神や、海外への雄飛、調査・分析の重視、チームワークの重視などは、時代の風雪に耐え、現代に通じる普遍的な考えとなっており、それらが創業当時に唱えられたことには感銘を受けます。

お客様や社会、倫理へのコミットメントが重要性を増している昨今、野村の倫理的責任に基づいた企業文化は継続させていくべきでしょう。野村のこれからを見据えた場合、やはり、海外展開がカギになると思います。ここシンガポールでは、ウェルス・マネジメント・ビジネスのお客様向けに活発な為替取引が行われているように、部門を越えたビジネスの機会にあふれているだけでなく、ASEAN地域出身の私から見ると、ASEAN諸国間、ASEAN諸国と日本、そしてアジアの国々とのクロス・ボーダー取引の機会も豊富にあり、野村にとって、まだまだ、ビジネスの機会、成長の機会があるのではないでしょうか。

急速な成長と発展が期待されると同時に、熾烈な競争が予想されるアジアにおいて、アジアのグローバル投資銀行として卓越した地位を確立するという野村の戦略について、どのようにお考えですか。

野村の「アジアに立脚したグローバル金融サービス・グループ」という言葉は、個人的にも非常に良いと思っています。世界でもっとも急速に経済成長しているアジアは、地域全体のGDPも増加すると推定されており、野村はアジアに本拠地を置く最大の投資銀行として、この地域で卓越した地位を確立するための大きなアドバンテージを有しています。

グローバル投資銀行として、M&Aをはじめ、株式や債券等のビジネスについては、アジア地域内のディールにとどまらず、アジアでの基盤をテコに、アジアと欧米をまたぐディールにも対応できる力をもっています。

このような環境下で、私の知人でもある、シンガポールの前首相のゴー・チョクトン氏をはじめ、インド、タイ、インドネシア各国を代表する有識者が、野村の「アドバイザリー・ボード」に加わりましたが、このことは、野村がアジア戦略、ひいてはグローバル戦略を強力に推し進めるうえで、心強いサポーターを味方につけたといってもよいでしょう。

Q5 野村グループは2012年から、アニュアルレポートとCSRレポートを統合した『Nomuraレポート』を発行し、野村がもつ経済的、社会的な価値を紹介してきました。企業の情報開示について、どのようにお考えですか。

私は統合報告を、アニュアルレポートの進化形と考えており、野村が統合報告である『Nomuraレポート』を発行していることは、正しい方向性に向かっているといえるのではないでしょうか。私が会長を務めるシンガポール会計委員会は、国際統合報告評議会(IIRC)と連携して、シンガポールの上場企業が統合報告を採用するように環境を整えてきました。

統合報告は今や、企業のサステナビリティレポートとアニュアルレポートの統合以上の発展を見せており、企業がその戦略や機会とリスク、ビジネスモデル、ガバナンス、パフォーマンスをどのように企業価値の創出につなげていくかについて、統合的な観点からステークホルダーに説明するものとなっています。

統合報告はプリンシプル・ベースであり、詳細なフォーマットは決まっていませんが、『Nomuraレポート』は、人材や環境などCSR関連情報とビジネスパフォーマンスについて、野村の社会的役割という文脈で統合的に語られており、有用な参考事例として、評価に値する内容となっています。