コーポレート・ガバナンス | 社外取締役インタビュー

牽制と助言を通じ、野村グループの競争力を高め価値創出に貢献していきます 社外取締役 監査委員(委員長) 島崎 憲明

社外取締役 監査委員(委員長)
IFRS財団アジア・オセアニア オフィス アドバイザー
住友商事(株)元代表取締役
副社長執行役員

島崎 憲明

野村のコーポレート・ガバナンスの優位性や課題についてお聞かせください。

野村は2003年に国内でもいち早く委員会等設置会社(現在の指名委員会等設置会社)となり、現在は取締役の過半数を独立社外取締役で構成、監督と業務執行の分離を明確にした経営を行っています。

就任から1年を経て、私は野村のコーポレート・ガバナンスが単に形式的に整えたものではなく、過半数の社外取締役を中心とした指名、監査、報酬の各委員会が非常に機能していると実感しています。なぜ機能しているかはトップの高い意識によるものです。野村では、毎年8月3日を「創業理念と企業倫理の日」として、不祥事からの教訓を再認識する日としています。私もビデオを見て宣誓しました。決してビジネス優先に陥ることなく、創業者野村徳七から受け継がれる「創業の精神十カ条」の「顧客第一の精神」をベースに持続的成長を目指す、という徹底した志を感じます。

就任後、京都・大阪支店やニューヨーク、ロンドン、香港、シンガポール、ポワイの地域拠点を訪問し、幹部との面談や中堅社員とのグループディスカッションを行いましたが、トップの考えが各地域の社員にも浸透していることがよくわかりました。

社外取締役として、「このビジネスは、野村の優れた理念に合致していますか」といった進言を行うことも役割の一つです。そういった社外の意見を真摯に受けとめる姿勢が現在の野村の執行部にはあり、ガバナンスの実効性は確実に上がっています。

監査委員会の具体的な役割と活動についてお聞かせください。

運用面では、2016年から、毎月開催している監査委員会に、監査委員以外の社外取締役が出席できるよう、変更しました。監査委員会では、グループCEOをはじめ、COO、部門長や子会社のヘッド等を招き、毎回1時間程度のヒアリングを行っています。執行部からさまざまな説明を受けるため、できるだけ取締役間の情報量の差をなくそうというのが狙いです。

2017年3月期、監査委員会では、大きく4つのテーマについて議論し、取締役会で報告しました。1つ目は健全な企業文化をさらに浸透させて盤石なものにするために、社員によりわかりやすく、現在の考え方を示すものをつくってはどうかと。2つ目は顧客第一主義を主眼にしながら、本業との両立を図り、野村の企業価値を高めること。3つ目はさまざまな部署の具体的戦術をモニタリングして、経営戦略の実現に向けた取り組みを確実なものにすること。最後は内部統制で、強固な態勢を構築し、経営管理を強化して、適切なリスク・テイクによって収益基盤を拡大し収益を今まで以上に上げていくこと。監督当局や監査法人との関係においても、コミュニケーションを十分に取りながらも緊張感を大切にした「緊張感のある信頼関係」を築いていくことです。

このように、単なる監督から少し踏み込み、野村の成長に向けた提言やモニタリングを、監査委員会としても行っていくことを目指しています。

社外取締役のみによる会議も2016年は年4回行いました。そのうち2回程度はグループCEOやCOO等にも参加してもらい、具体的な戦略や中期経営計画等に多くの時間を割いて議論しています。

野村が海外での存在感を高めていくには何が必要でしょうか。

野村グループは、「アジアに立脚したグローバル金融サービス・グループ」を目指していますが、国際化にチャレンジしている数少ない会社の一つと考えています。成功の鍵はまずは人材でしょう。私が想像していた以上に野村の海外にいる人材のレベルは高く、幹部クラスのみならず、営業、IT、人事、総務、事業サポートセンターなどの人材についても、能力、意識ともに高いものがあります。そして、彼らと協働しサポートする東京の人材も優れており、野村本社の国際化も進んでいます。これらの多様な人材が個性や能力を発揮して活躍できる体制をさらに強化することで、海外での存在感を高めていけるのではないでしょうか。

野村では、部門長と地域ヘッドに適切な範囲で権限を委譲し、それぞれの分野で専門性の向上を図る、縦方向と横方向のマトリックス経営を進めています。その経営形態が煩雑にならないよう今後はより一層、的確なアサインメントと責任の明確化を追求し、各ヘッドを中心とした緊密な連携により海外における競争力を高めていけると考えています。また日本とアジアを一体化させ、日本でのノウハウをアジアで展開する戦略も重要です。

野村の企業価値を高めるために重要なことは何でしょうか?

野村ホールディングスは2020年3月期をターゲットとする長期経営ビジョン達成のために、国内におけるビジネスモデルの変革と、海外の収益性のさらなる改善、という二つの大きなテーマのもと、いかなる環境においても持続的な成長を果たせるよう、基盤づくりに取り組んでいます。その実現には、トップマネジメントが明確な戦略と具体的な方向性を示すとともに、それらを現場にまで浸透させていく「戦略の現場化」が重要です。

さらに、その戦略について現場がどう思っているのか、彼らの意見を次の戦略・戦術につなげていく「現場の声の戦略化」も鍵となります。そしてこれらをPDCAで回して、より高いものを目指していくことが不可欠だと考えています。

また「ベストプラクティスに学ぶ」ことも重要で、欧米系の投資銀行やメガバンクなど国内外で着実に収益を上げ、企業価値を高めている企業を参考にしながら、野村独自の価値の創出を目指していくことも必要です。社外取締役には執行部を監督するという役割と、企業戦略、企業成長を支えるための助言をするという役割があります。社外取締役、監査委員長として、牽制と助言を通じて野村の競争力を高め価値創出に貢献していきたいと考えています。