ガバナンス、リスク管理、コンプライアンス | 社外取締役インタビュー

木村 宏 社外取締役 指名委員(委員長)/報酬委員(委員長) 日本たばこ産業株式会社 社友

社外取締役 木村 宏
指名委員(委員長)/報酬委員(委員長)
日本たばこ産業株式会社 社友

指名委員会の活動状況や審議内容について教えてください

指名委員会のミッションは、毎年の取締役候補者とその選定理由を決定すること、それから社外取締役の独立性基準を決定することです。そのうえで、この1~2年は委員会の重要な任務であるグループCEOの後継者計画について、最も多くの時間を割きました。規程上、指名委員会は年1回以上開催することになっていて、通常は年3回ほど開催されますが、2019年3月期は6回、2020年3月期は9回に増えました。

野村ホールディングスの取締役候補者を選ぶ際に、指名委員会は、どのような点を重視していますか

コーポレート・ガバナンス・ガイドラインに、取締役に必要な要件が書かれていますけれど、まずは多様性を備えた取締役会の構成にするということ、次に過半数を社外取締役にするということです。多様性というのは国籍やジェンダー、専門分野も含めて、ということですね。また社内の取締役に関しては、グループCEOやグループCOO(いまは不在)も、基本的に取締役とすることとしています。結果として現在10名いる取締役のなかで、社外取締役が6名、うち外国人が2名、女性が2名という構成です。社外取締役については、専門性に加えて独立性基準を満たすことを要件としています。

ガバナンスという観点では野村ホールディングスは先進的な形を取っているといえます。つまり、取締役会は基本的には経営の監督を責務とし、執行との分離が極めて明確になされています。そのうえで、一律の基準があるわけではありませんが、グループCEOの職責を十分果たすことができないと判断する場合に、解任するのも取締役会の役割です。

2019年12月に、2020年4月のトップ・マネジメント人事を発表しました。奥田さんを新グループCEOとして決定するうえで、いつ頃から議論を開始していたのでしょうか

実質的には2018年からです。当時のグループCEOである永井さんが指名委員会に説明者として出席し、10名以上の候補者から徐々に絞り込んでいったのですが、まず、議論になったのがグループCEOとしての要件をどう定義していくか、ということでした。永井さんのときとは、経営環境が相当変わってきていました。今後、野村が向き合う経営環境において、必要な施策を、リーダーシップをもって進めるにはどういった資質や経験が必要か、あるいはどのようなリーダーシップのタイプが適切かなどの観点を含めて多面的な議論を進めてきました。議論が本格化したのは、2019年8月、10月、11月の3回の指名委員会だったと思います。12月の委員会で最終的に奥田さん一人に絞り、取締役会に諮りました。

指名委員会は、現役の役員と直接話す機会が、実はあまりないのです。一方、監査委員会は毎月インタビューをやっていて、各ビジネスの部門長だけではなく、その下の執行役員とも接する機会があります。そこで3年前の取締役会の実効性評価での意見により、監査委員以外の社外取締役も監査委員会に陪席できるようになりました。私もタイミングが合えば極力出席して、質問することもあります。また、国内外の役員が集まってグループや部門の業況や戦略等について議論が行われる会議に、社外取締役も陪席できるようになりました。こうした会議に出ることで現場と接することができ、結果として指名委員が各候補者のその人となりを知り、スムーズな選定に結び付けられていると感じています。

そうしたプロセスを通じて、指名委員会として、奥田氏が新CEOとして最適だと結論付けられた理由はなんでしょうか

野村は、人材が極めて豊富な会社です。実際、世の中を見回しても野村出身者が相当活躍していますし、人を育てるという野村スピリッツがあると思います。そうした豊富な人材のなかから奥田さんに絞ったのは、少なくとも今後5年先、10年先、野村は変わっていかなければならない、そういうときに奥田さんであれば大きなリーダーシップを発揮してくれるであろうということです。奥田さんはホールセール部門を中心に歩んできて、海外経験もあります。少子高齢化や手数料率の低下といったマクロ環境を踏まえて野村の今後を考えた場合、国内でシェアを高めたとしても、収益や利益が大きく伸びる余地は限られています。そうしたなかで今後、伸ばしていかなければならないのは、むしろトレーディングやキャピタル・マーケッツなどのホールセール・ビジネスに加えて、中国、マーチャント・バンキングなどの新規事業領域です。そのうえでホールセールについては、ブローカレッジだけではなく、顧客基盤に根差してビジネスを成長させていく、これを引っ張っていくのに最適な人材は奥田さんであった、ということです。ホールセール部門は、3月のマーケット急変を受けて評価損を出しましたが、昨年・今年と、根っこの競争力は着実に上がってきていると感じています。ただ、果たしてこれが安定しているのかと問われればどうか。ある年は大きな黒字を出したかと思えば、翌年は赤字ということが過去にありました。今後はもうないのかといわれると、ないとはいい切れない。海外の収益を安定させて収益性を高めていくことは、野村にとって財務的に見ても重要な課題です。ただ闇雲に拡大するのではなく、コストもきちんと管理しながら伸ばしていく必要があります。

また、急速に進化するIT、特に新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今後ますます加速するであろうデジタル化などの課題に対して、野村は、先端を走らなくてはなりません。国内における地域金融機関との提携やLINE証券などのパートナーシップも極めて重要で、すべてを自前でやる必要はありません。バランスの巧拙が競争力を決めるかもしれません。こうした課題に向き合い、全体のバランスを見ながら、取り組みを加速していくリーダーとして、奥田さんが最もふさわしい人物だと判断しました。もともと構想力や企画力のある人ですし、対外的・対内的なコミュニケーション能力、つまり金融の専門用語ではなく自分の言葉で分かりやすく伝える能力にも長けています。

次に報酬委員会の開催頻度と審議内容を教えてください

規程上は年1回以上の開催となっていますが、2020年3月期は8回開催しました。1回は不祥事に伴う役員報酬の自主返上について、それ以外に報酬水準について審議しました。あとは私が委員長になったことを機に、役員報酬の決め方についてもう少し透明性の高いものにしたいと思い、議論しています。業績が良いときは胸を張ってそれなりの報酬を払うべきで、ちゃんとしたルールを作り、メリハリのある報酬支払いにすべきだと考えています。報酬をもらう側も、自分の何が評価されて報酬が決まっているのかが分かれば、インセンティブにもなります。

国内外のグローバル他社の事例も勘案し、2020年3月に大枠の合意をしました。これから、どのKPIを使うのかといった詳細を決めていく段階です。奥田グループCEOに変わり、新しい経営ビジョンを掲げていますので、それも加味した体系になるでしょう。定性評価も入れたいと思っています。フィデューシャリー・デューティや顧客満足度の結果、その成果である顧客預り資産がどれだけ増えたかなど、部門によっては大事な項目です。経営全体と個別の評価では、参照するKPIも違ってくるかもしれません。

取締役議長は社外取締役の方がよいという意見がありますが、野村は違います。そのあたりについてどう思われますか

金融機関のなかでも社外取締役が取締役議長を務めているところもありますが、野村については、私は社内取締役が良いと思います。金融業界に知見のある取締役はいますが、証券業界のすべてを分かっているわけではありません。議長は議論を円滑に進めていく機能です。いままでも議長が結論を左右することは基本的にありませんでしたし、問題を感じたこともありませんでした。取締役会の実効性評価でも、今年3月まで議長をしていた古賀さんの評価はかなり高いものでした。

過半が社外取締役なので、そんなことは決してないと思いますが、新議長に重大な問題があれば議長を変えられるという安全弁はついています。いまの取締役会は、6名の社外取締役を含めて、かなり活発な議論が繰り広げられているのが現状で、議長が議論をリードすることはあっても、結論をリードすることはありません。

ありがとうございます。最後に、野村HDのガバナンスで課題があればお願いします

冒頭でも申し上げましたが、野村のガバナンスの考え方や体制は、かなり先進的だと思います。

そして、全社のガバナンスの徹底は、執行が責任をもっています。2019年の不適切な情報伝達事案を受けて、こうしたものを絶対に再発させないために、野村は社内のあらゆるレイヤーで議論を積み上げて、『野村グループ行動規範』を作りました。規範性の高い、プリンシプル・ベースのものです。「ルールに書いていないものはやってもいい」という、一部の誤った風潮をなくすために、5つの質問に対して自問自答して「AllYes」だったら、やってもいいということを決めました。これは非常に大事なことです。とはいえ、ガバナンスに終着点はありません。環境も変わってきます。必要な措置はずっと続けていく必要があると思っています。