⸺東京・日本橋。かつて五街道の起点として日本の交通と経済の要所であったこの橋のたもとに、ひときわ異彩を放つ建物があります。その独特な外観から「軍艦ビル」と呼ばれる、1930年竣工の「日本橋野村ビルディング」は、中央区の有形文化財にも指定されています。現在、この歴史ある建物は外観と1階内部を残しつつ、大規模な再生工事を進めています。屋上から順に解体され、最終的には外壁のみを保存する予定です。伝統ある外観を守りつつ、時代に即して革新を続ける姿こそ、私たち野村の挑戦の象徴です⸺

本年、創立100周年を迎えるにあたり、2024年4月、「金融資本市場の力で、世界と共に挑戦し、豊かな社会を実現する」というパーパスを策定しました。ここには、お客様をはじめすべてのステークホルダーの皆様の「何かを変えたい」「何かをよくしたい」という挑戦に寄り添い、社会から信頼され尊敬される企業を目指す私たちの決意が込められています。
その実践のために、2030年に向けた経営ビジョン「Reaching for Sustainable Growth」を設定しました。具体的な目標として、「ROE 8~10%+の安定的な達成」と「5,000億円超の税前利益の達成」を掲げています。「パブリックに加え、プライベート領域の拡大・強化」の方針のもと、「安定収益の飛躍的な成長」および「グローバル戦略の深化」を加速しています。
この数年間私たちが積み重ねてきた中長期の取り組みは、2025年3月期に、明確な成果として現れました。主要3部門すべてで増収増益を達成し、当期純利益は過去最高の3,407億円を記録しました。ROEは10.0%に達し、目標を上回る結果となりました。ウェルスマネジメント部門では、資産管理型ビジネスが確立され、投資信託などの残高に応じて発生するストック収入は過去最高となりました。
また、主要3部門における海外ビジネスの収益割合は現在47%に達し、特にグローバル展開が進むホールセール部門では、海外収益が72%を占めるまでに拡大しました。また、全社員の約45%が海外拠点で働いており、多様な人材が活躍する真のグローバル・プラットフォームへと成長しています。
これは事業の質的改善と収益の安定化と共に、グローバルでの持続的な成長の基盤が築かれつつあることを意味しています。新たなプラットフォームの拡充や、組織の枠を超えた成長に向けた施策も着実に進めています。
本年4月には、オーストラリアのマッコーリー・グループが保有する米国資産運用会社の全株式取得に合意しました。この買収により、高成長かつ最大級のフィープールを持つ米国へのアクセスが強化され、インベストメント・マネジメント部門におけるグローバル展開の強固な基盤を確立します。
加えて、主要3部門に次ぐ新たな事業の柱として、バンキング部門を設立しました。従前、野村信託銀行が培ってきた「信託銀行」としてエッジのきいた独自の強みを最大限に発揮しつつ、グループの枠に捉われず新たなビジネスに挑戦していきたいと考えています。
様々な挑戦を推し進める一方、今後も私たちの戦略を確実に形にするために最も重要なのは、組織の「強さ」です。その源は間違いなく「人」にあります。世界の様々な国と地域で働く、90か国以上の国籍を持つ約2万7千人の多様な人材が、それぞれの個性と能力を最大限に発揮できる環境こそ、私たちの競争力の基盤です。今後も、新たな未来に向けて、「人」にしか実現できない価値への投資を惜しむことなく、各人が自分らしく力を発揮できる環境を整備していきます。
「軍艦ビル」の外観をそのまま残しながら、内部を全く新しいものに作り変えるように、私たち野村グループも、伝統ある外枠を維持しつつ、時代の波を先取りしながら中身を絶えず革新し続けています。さらに、これからの10年は既存の枠組みを打ち破り、その外へと大きく飛躍する時期だと考えています。まさに、日本橋軍艦ビルの外枠さえも壊し、新しい地平を切り拓いていく挑戦の時期なのです。
これから先に待つ未来に向けて、私たちの挑戦はまだ始まったばかりです。これからも変革のスピードを緩めることなく、皆様の期待を超える新たな価値を創造し続けていきます。
私たちの挑戦に、どうぞご期待ください。
2025年8月
代表執行役社長 グループCEO
奥田 健太郎