野村ホールディングス株式会社

野村ホールディングス株式会社(代表執行役社長 グループCEO:奥田健太郎、以下「当社」)は、国立大学法人東京大学大学院工学系研究科 教授 和泉潔研究室(以下「和泉研究室」)との共同研究の成果をもとに、株式ファンダメンタルズ分析に特化したAIエージェントを開発しました。当社は、生成AI等の最先端技術を活用した株式分析・資産運用の高度化を目指して2024年3月より和泉研究室と共同研究をすすめてきました。このたび、その成果をもとに、生成AIおよび金融実務のノウハウを融合し、本AIエージェントを開発しました。


本AIエージェントは、決算説明資料等のテキストを独自の生成AIフレームワークにより分析するとともに、当社の運用プロフェッショナルが蓄積したノウハウと経験を組み込み、金融の実務知見を反映しています。これにより、株式分析および銘柄選定の高度化が図られ、運用パフォーマンスの向上が期待されます。

 

ファンドマネージャーやアナリストが株式の銘柄分析を行う際は、財務指標など定量データに加え、決算説明会でのプレゼン資料や議事録、プレスリリース、開示書類、市場予想などの膨大なテキスト情報の読み解きが必要です。今回開発したAIエージェントは、膨大なテキストを高速に処理・要約できるため、情報収集力と対応速度が飛躍的に向上し、AIによる定性評価(業績予想ギャップ、事業成長見通し、株主還元見通しなどをスコア化)に定量データを補完することで、異なる観点からの銘柄選別が可能になりました。これにより、ポートフォリオのアルファ創出につながり、バックテストでもその有効性が確認されました。

 

現在、当社内での試験導入の準備を進めており、今後は社員の運用調査業務等の付加価値向上に寄与するソリューションとして提供することを目指します。


また、共同研究成果の一部は、人工知能分野で最も権威ある学会の一つであるInternational Joint Conference on Artificial Intelligence(IJCAI)および国際的に高く評価される学術誌Intelligent Systems with Applications(ISWA)に採択されました。

 

当社は今後も、生成AI等の最先端技術を活用した今までにない分析手法や金融サービスの研究開発を継続し、新たな価値創出を推進します。

【ご参考】採択された論文について

"CoFinDiff Controllable Financial Diffusion Model for Time Series Generation"(IJCAI)

金融市場を分析する際には、急激な価格変動や市場の混乱といった稀な事象を含む局面を適切に扱うことが重要ですが、そのような事象を十分に含むヒストリカルデータは限られているという課題があります。近年、この制約を補う手段として、特定の市場シナリオや統計的特徴を計算機上で人工的に生成する金融合成データが注目されています。しかし、従来の深層学習にもとづく生成モデルでは、学習データへの追従に依存するため、生成されるデータの性質を意図的に制御することが困難でした。本研究では、この問題に対処するため、条件付き金融拡散モデルCoFinDiffを提案します。CoFinDiffは、価格系列を画像として表現し、拡散モデルと呼ばれる生成AIを用いて、トレンドおよび実現ボラティリティを条件とした金融時系列データを生成します。実験結果から、ファットテールやボラティリティクラスタリングといった金融特有の性質を再現しつつ、ユーザーが指定した条件にもとづく柔軟なデータ生成が可能であることを示しました。

"Emulating fundamental analysts: Analytical stage-based multi-agent framework enhanced with expert guidance and Preference-Anchored Likelihood Adjustment"(ISWA)

企業の決算発表は、投資判断に資する重要な情報が集約的に開示されるイベントであり、その内容を適切に分析することは投資判断を行う上での前提条件です。本研究では、大規模言語モデル(LLM)に決算分析を行わせることを目的として、実務における分析ノウハウを踏まえ、決算分析を複数のステージに分割して実施するフレームワークを提案しています。本フレームワークでは、各ステージにLLMを基盤としたAIエージェントを配置し、人間の専門家のテクニックや経験を再現するために、適切なプロンプトエンジニアリングおよびファインチューニングを各AIエージェントに適用しています。これにより、各ステージに特化した分析能力の向上を図っています。さらに、実際の決算データを用いた実証実験を通じて、提案フレームワークが決算資料を詳細かつ論理的に分析できること、ならびに決算後の株価変動に対する説明能力が向上することを確認しました。

"Can large language models autonomously generate unique and profound insights in fundamental analysis? "(ISWA)

人間の専門家は、企業分析を行うにあたり、長年の経験を通じて蓄積してきた知識や洞察にもとづき、単なる事実の要約にとどまらない独自の観点を提示することができます。同様に、LLMに企業分析を行わせる際にも、知識蓄積のプロセスを辿らせることで、より高品質な分析結果を生成できると考えられます。そこで本研究では、LLMが自律的に企業分析を実行可能なシステムを開発しました。本システムは、過去数年分の決算資料を必要に応じて取得し、多様な分析テーマに関する結果を継続的に記録・蓄積することを可能にしています。さらに、実際の決算データを用いた実証実験を通じて、提案システムの下でLLMが企業の各側面に対する分析を体系的に蓄積できること、ならびにその結果として、事実の整理を超えた独自の観点や洞察を提示できるようになることを確認しました。