気候変動の現状と未来

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、第6次評価報告書のうち「気候変動-自然科学的根拠」部分を公表しました。この報告書は、気候変動の現状・先行きに関するグローバルな基礎資料で、各国政府・国際機関・企業・非営利団体の「認識のベース」になるものです。10月31日にスコットランドで開幕するCOP26(気候変動枠組み条約第26回締約国会議)を前に、主なポイントを整理します。

1. 人的要因が気候変動に影響を与えたことは「疑いない」と初めて断定

第1次報告書(1990年発行)では「人為起源の温室効果ガスが気候変化を生じさせる恐れがある」だったものが、第5次報告書(2013年発行)には、「20世紀半ば以降の温暖化のほとんどは人為起源の温室効果ガス濃度の増加による可能性が極めて高い(95%以上)」と記載され、発行を重ねるごとに確信度が高まっています。

2. 気温上昇+1.5℃(工業化前比)への到達時期を10年前倒し

従来の見通しでは、世界の平均気温が工業化前比+1.5℃に到達するのは2031~50年だったものが、今回の報告書では、2021~40年へと10年前倒しされました。

3. 2050年ネットゼロ実現でも21世紀半ばまで気温上昇が続く

報告書では、温暖化ガス排出等に関して5つのシナリオを想定。このうち最も排出削減が進むシナリオ(2055年ごろにCO2排出量がネットゼロに到達)でも、世界の平均気温は21世紀半ばに+1.6℃(工業化前比)ほど上昇するとされています。

4. 気温以外の変化(海水面上昇)を逆転させるには100~数千年が必要

CO2のネガティブエミッションを実現すれば、世界の平均気温は徐々に低下していきますが、上昇した海水温や、低下した海水酸素濃度が元通りになるにはかなりの時間が必要。また、一度溶けてしまった氷床などは元通りになるとは限らず、海水面上昇などは恒久化する可能性もあります。

5. 工業化前比+1.5℃実現のカーボン・バジェットは3,000~4,000億トン

カーボン・バジェットは、気温上昇の目標値に応じて決まる、追加的なCO2排出可能量のこと。本報告書では、工業化前比+1.5℃を67~83%の見込みで実現する場合、残されたCO2排出可能枠は3,000~4,000億トン。近年の年間CO2排出量は約330億トンであり、10年強しかカーボン・バジェットは残されていません。

IPCCとは?

気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change, IPCC)は、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的に、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立された政府間組織で、現在195の国と地域が参加しています。IPCCには3つの作業部会(WG)と1つのタスクフォース(TF)が置かれています。

  • WG1気候システム及び気候変動の自然科学的根拠についての評価
  • WG2気候変動に対する社会経済及び自然システムの脆弱性、気候変動がもたらす好影響・悪影響、並びに気候変動への適応のオプションについての評価
  • WG3温室効果ガスの排出削減など気候変動の緩和のオプションについての評価
  • TF温室効果ガスの国別排出目録作成手法の策定、普及および改定

(出所)気象庁

野村證券リサーチレポート「IPCC報告書が示した『ほとんど確実な未来』」(2021年8月12日)より

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