COP27で結束確認も脱炭素推進力は強まらず

COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)が11月6日~20日にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されました。地球温暖化とその悪影響に関する先進国と発展途上国の対立を緩和するための「『損失と被害』に対する基金」創設など、一定の成果はあったといえるものの、総じて脱炭素の推進力を高める結果とはならなかったと言えます。エネルギー供給不安や燃料価格高騰を受けて、短期的なエネルギー安全保障意識が強まる中では、脱炭素の取り組みを加速させるような力強い合意は難しいとみられていましたが、基本的にはそうした低い期待値に沿ったものとなりました。

COP27の結果は、低かった期待値の想定線上

COP27で採択された「シャルム・エル・シェイク実行計画」の要点を以下にまとめました。

COP27の主な合意事項

  1. (1)「損失と被害」に対応する基金を設立し、特に脆弱な途上国を支援
  2. (2)気温上昇を1.5度に抑える更なる努力を追求することを決意
  3. (3)1.5度目標の達成には2030年までに温暖化ガス排出量を2019年比43%削減する必要
  4. (4)2023年末までに各国が排出削減の30年目標を再検討、強化
  5. (5)2030年までに再生可能エネルギーへ年4兆ドルの投資が必要
  6. (6)石炭火力を段階的に削減、化石燃料補助金は段階的に廃止

(出所)日本経済新聞資料より野村作成

このうち最も注目されたのは(1)「損失・被害」に対応する基金の設立。損失・被害については、2013年にポーランド・ワルシャワで行われたCOP19において、「損失・被害に関するワルシャワ国際メカニズム」が設置されていましたが、その後2017年に定められた活動計画には、資金面の支援が記載されていませんでした。今回のCOP27における成果は、こうした経緯の延長線上にあると考えます。徐々にではあるものの、損失・被害に対する関心が国際社会で高まっていると言えるでしょう。

ここで注意が必要なのは、シャルム・エル・シェイク実行計画の段階では、設立される基金についての詳細は決まっていないということ。基金の運営に当たる移行委員会(Transitional Committee)が設置され、損失・被害に関する現行制度やその不備を把握した上で、勧告を2023年に開催予定のCOP28までに提出する予定になっています。現時点では、設立される基金の規模や仕組みはほぼ白紙であるものの、今後1年かけて詳細が議論されると見られています。

(6)排出削減措置のない石炭火力発電に対する段階的削減については、エネルギー安全保障が脅かされる中でも、欧州が気候変動対策のこれまでの成果を後退させなかった内容として前向きに評価できます。欧州では、EUがREPowerEU計画において、再生可能エネルギーの導入加速や天然ガスの脱ロシア依存を進める方針を示してきました。こうした合意があってこそ、今回のCOPではこれまでの気候変動対策が目立って後退しなかったと言えます。

「損失と被害」とは

これまでの、気候変動を抑える「緩和」と、その影響を軽減する「適応」という温暖化対策では防ぐことができず発生してしまった被害に対し、どう対応するかを議論する分野。砂漠化や海面上昇といった自然被害の深刻化は、主に先進国による温室効果ガス排出量の増加によって引き起こされているため、その影響を最も受けている島嶼国や開発途上国が国際社会に公正な支援を求めているもの。

(出所)WWFジャパン、国際連合広報センター

企業の「ネットゼロ」への取り組み強化を求める国連の動き

足元での温室効果ガス排出増加を踏まえて、各国に対して2030年までの削減目標の再検討、強化が要請されることは想定線ではありました。企業に対しても削減貢献の積み増しが期待されることになるでしょう。そうした中、COP27期間中に国連の専門家グループが企業の「グリーンウォッシュ」を排除するための提言を発表し、国連とISO(国際標準化機構)が「ネットゼロ」計画策定の指針を公表。いずれも、カーボンニュートラルというよりも、排出絶対量の削減をより重視した形になっています。今後、各企業の排出量削減計画とその実効性がより注目される可能性があります。

野村リサーチレポート「野村ESGマンスリー(2022年12月)」より

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