林 宏美

要約

  1. 自然資本に関する企業のリスク管理ならびに開示枠組みを構築する自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、2024年10月27日、企業および金融機関が自然移行計画を構築し、開示するためのガイダンス案を公表した。TNFDは2023年9月に公表したTNFD提言(v1.0)において、企業や金融機関に対して自然移行計画の開示を求めている。
  2. TNFDの自然移行計画ガイダンス案は、「基盤」、「実施戦略」、「エンゲージメント戦略」、「指標と目標」、「ガバナンス」の5点を基盤としている。これらは、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すグラスゴー金融同盟(GFANZ)が2022年11月に公表した、ネットゼロ移行計画の枠組みにおける開示要素と同じである。そのうえで、英国の移行計画タスクフォース(TPT)が2023年10月に公表した、ネットゼロ移行計画の開示サブ要素を取り入れている。その際、気候変動に特化した要素を除外し、「自然移行の枠組みと範囲」、「計画の優先順位」、「依存度とインパクトの指標と目標」、「景観、流域、海景へのエンゲージメント」という自然資本特有の4項目を加えている。
  3. TNFDは、気候とのシナジー効果やトレードオフを重視しており、最終的には、気候と自然に加えて、社会的目的も含む、統合された移行計画の策定を視野に入れている。しかしながら、自然移行計画の策定に向けては、(1)質が担保された自然関連データの不足、(2)企業が自然移行計画の対象から外したものの、客観的に見ると重要な自然移行過程を投資家等が把握できない可能性、(3)客観的な指標をもとにした対応を取りにくい社会的目的の統合、等の課題がある。ガイダンス案が、企業の取り組みや開示の質の向上に繋がっていくか注目される。