関田 智也

要約

  1. 2024年の欧州議会選挙を経た新体制下の欧州連合(EU)が、今後の政策の方向性を打ち出している。欧州委員会は2025年1月、「EUのための競争力コンパスを巡るコミュニケ(以下、競争力コンパス)」を公表した。競争力コンパスは、EUの競争力回復を目的としており、2029年までの期間における政策方針及び戦略的枠組みを提示するものである。
  2. 競争力コンパスにおける金融資本市場関連の注目施策の一つとして、貯蓄投資同盟が挙げられる。貯蓄投資同盟は、EUの潤沢な家計貯蓄をEU域内の投資機会へ向かわせることを図る政策イニシアチブであり、EU金融資本市場の統合深化を図る既存の取り組みである銀行同盟及び資本市場同盟を発展・統合させることを目指している。欧州委員会は、近く貯蓄投資同盟を巡る政策方針を提示する予定であり、その内容が注目される。
  3. もう一つの注目施策は、企業の規制負担軽減を図るオムニバス法案である。欧州委員会が2025年2月に公表した第一弾のオムニバス法案は、サステナビリティ関連情報開示を巡る規制を簡素化することを目指している。第一弾オムニバス法案の内容が実施されれば、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)等の規制対象となっている日本企業の開示負担が解消・軽減・猶予される可能性がある。
  4. 競争力コンパスが標榜する「規制の簡素化」は、米国のトランプ新政権が標榜・推進する規制緩和路線に追随する動きのようにも見受けられる。一方で、欧州委員会は第一弾のオムニバス法案において、規制の簡素化が規制緩和とみなされないような提案・情報発信を志向しているようにも見受けられる。EUがグローバルにリードしてきたサステナビリティ関連規制において、EUの規制を巡るスタンスが規制緩和とは一線を画す方針を続けるのか否かは、日本を含む世界のサステナビリティ関連規制の在り方にも影響を及ぼすだろう。