関田 智也、中村 美江奈
- ロシアによるウクライナ侵攻やトランプ政権の外交政策といった世界情勢の変化に伴い、欧州は防衛政策の方針を大きく転換している。各国政府は「自力防衛」の実現に向け大幅な防衛費引き上げの方針を示し、欧州連合(EU)も8,000億ユーロ規模の防衛力強化策等を打ち出した。
- EU及び欧州各国政府は、公的資金のみならず民間資金も防衛セクターへ導入すべく、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資における防衛セクターへの投資の後押しを図る等、積極的な取り組みを行っている。取引所グループのユーロネクストも独自の支援策を展開している。
- こうした状況下、従来は防衛セクターへの投資を抑制してきた欧州のアセットオーナーも、方針転換を迫られている。欧州大手年金基金の中には、防衛力強化を支持する社会的な価値観の変化や、防衛セクター銘柄が生み出すリターン確保の観点から、責任投資の再定義を通じて防衛セクターへの投資制限の緩和を図る動きが見られる。
- 主にレピュテーションリスク等の観点から防衛セクターへの投資制限を課してきたアセットマネージャーの間でも、顧客たるアセットオーナーの方針転換等を背景に、ESG投資における防衛セクターへの投資方針を再検討し、これを緩和方向に修正する動きが広がりつつある。
- 欧州における防衛セクター投資を巡る方針転換は、未だ端緒についたばかりであると考えられる。欧州のESG投資における防衛セクター投資の位置付けや議論がどのように収束していくのかは、日本を含む欧州域外にも重要な示唆を持つだろう。