西山 賢吾

要約

  1. 野村資本市場研究所が算出した2024年度の政策保有比率は2023年度に比べ1.4%低下して29.4%、純投資比率は1.4%上昇して70.6%となった。政策保有比率が30%を割り、純投資比率が70%を超えたのは、データを遡及することが出来る1990年度以降で初めてである。
  2. 2024年度は、金融、非金融とも2023年度に比べ1社あたりの政策保有株式の純減少幅が拡大した。特に非金融では伝統的に多くの政策保有株式を有する企業グループで株式保有、資本関係の見直しが始まったこと、金融では不祥事に端を発した損害保険会社(グループ)の政策保有株式の見直しが進められたことが、政策保有株式の純減少額拡大の主要因となった。
  3. 2023年度に話題となったいわゆる「政策保有株式ウォッシュ」に関しては、2025年3月期決算の有価証券報告書より、保有目的を純投資以外(政策保有株式)から純投資に変更しても5年間は個別開示を継続するなどの改正が行われたことから、懸念は軽減されると見られる。一方で、取引の縮減等を示唆することで政策保有株式の売却を妨げる、いわゆる「政策保有株式を売らせない」問題については、2026年にも予定が見込まれるコーポレートガバナンス改訂の検討項目として挙がっており、今後対応が議論されると考えられる。
  4. 機関投資家の議決権行使基準において政策保有に関する数値基準の厳格化が進むと予想されることなどから、2025年度以降も政策保有株式の見直し、圧縮は続くであろう。また、政策保有先企業への議決権行使や取引先持株会の状況についても注目を集めると見られる。一方で保有合理性に関する議論(例えばスタートアップ企業への投資)の必要性が高まるなど、政策保有を巡る議論が新しい局面を迎える萌芽も見られている。