江夏 あかね

要約

  1. 人工知能(AI)の研究開発と活用を推進するための法律「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下、AI法)が2025年5月28日に成立し、同年6月4日に公布された。
  2. 日本のAI法は、基本法的な性質を有し、AI戦略本部の設置、基本計画の作成、指針の整備を始めとして多くの条項が国を対象とするものとなっている。民間セクターに関係し得る活用事業者については、国と地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない等の責務が掲げられたほか、国が活用事業者等に対して状況に応じて指導・助言を行う旨が示された。一方で、欧州連合(EU)のAI規則で設けられているような活用事業者に対する罰則規定は含まれなかった。
  3. 主要国のAI関連規制の動向を見ると、EUでは他地域に先駆けて2024年8月にAI規則が発効した一方、米国ではバイデン政権下で公布された大統領令がトランプ政権下の2025年1月に撤回され、規制緩和の方向となっている。
  4. AI関連規制は、国・地域によってスタンスが異なるものの、AIの急速な発展・普及に伴い、個々の企業にとって潜在的機会・リスクが拡大していることは言うまでもない。金融資本市場の観点からも、米議決権行使助言会社のグラス・ルイスが2025年の日本向けの助言方針において、AIに関する取り組みを取締役選任議案の考慮要素の1つに加えたように、企業がAIを適正に利活用し、リスクを管理しているか、また、取締役会で適切に監督しているかといった点が投資判断の要素として重要性が増していくことが想定される。