野村インベスター・リレーションズ エグゼクティブフェロー(野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター 客員研究員)佐原 珠美

要約

  1. 有価証券報告書へのサステナビリティ情報の記載が上場企業に求められるようになったことで、多くの企業で複数の開示媒体の情報が重複したり、発信するメッセージに一貫性を欠くという課題が見られるようになった。
  2. 経済産業省の「企業情報開示のあり方に関する懇談会」は、2024年、法定開示書類と任意開示書類に分散している情報を一つの法定書類にまとめて開示することを提示した。これにより情報整理の過程で重複が解消され、必要な情報を効率的に届けることが可能になる。ただし、媒体の一体化を実現するには、各媒体の開示時期や関係機関の調整など、解決すべき課題が多く残る。
  3. 一部の日本企業は、主に任意開示媒体の情報最適化に向けて模索を始めている。情報の取捨選択・整理を始める企業や、有価証券報告書や統合報告書に情報を一本化する企業も現れ始めた。
  4. 海外企業の中には、財務・非財務情報の一体化を実現しているケースが多く見られる。欧州連合(EU)では法定開示における財務・非財務情報の一体化が進んでいる。英国の多くの企業は、統合報告書に相当する戦略報告書にガバナンスや財務情報を一体化して開示している。英国では、戦略報告書に企業固有の価値創造の仕組みや将来情報を記載し、それと合わせて財務・非財務・ガバナンス等の比較可能なデータを開示する傾向にある。情報の適切な棲み分け、メッセージの一貫性、各媒体間の連携という点で大いに参考になる。
  5. 開示情報の最適化については、(1)「企業独自の価値創造に関する重要な情報」を最上位の概念として整理すること、(2)その最上位概念を補完・実証する「比較可能な詳細情報」を一貫性・整合性を持って整理すること、そして、(3)両者を関連付けストーリー化することに留意したい。その上で、マネジメントからの重要なメッセージについては媒体間で一貫性を保つ必要がある。そのため、企業は部門横断組織などを通じて全社視点で情報発信の「目的」と「対象」を受け手視点で明確化し、各目的・対象ごとに情報を再整理しながら媒体の集約・統合を進めるべきである。複数媒体の情報の一貫性を保つためには、キーメッセージを各部門間で共有し、媒体発行後は社内外のフィードバックや最新の情報開示動向を踏まえて継続的に改善することが望ましい。