米国上場企業のコーポレート・ガバナンスに係る最近の議論

野村資本市場研究所 岡田 功太

要約

  1. 近年、米国上場企業のコーポレート・ガバナンスに係る議論が注目を集めている。ウォ ーレン・バフェット氏(バークシャー・ハザウェイ会長兼CEO)及びジェイミー・ダイモン(JPモルガン会長兼 CEO)は2018年6月、米国上場企業に対して、必要に応じて、四半期業績予測の公表を中止するよう要請した。両氏は、四半期の収益目標を達成しなければならないという強い圧力が、企業の長期的な成長や繁栄に必要な支出、人材採用、研究・開発を抑制し、長期的な視点に立って経営をする企業に対して、悪影響を及ぼす可能性があると考えている。
  2. 証券取引委員会のロバート・ジャクソン委員は2018年6月、米国上場企業による自社株買いに係る規則の見直しを提言した。同委員は、自社株買い自体に問題はないものの、自社株買いにより株価が上昇した際に、経営者が持株等を換金し自身の短期的な利益を獲得するのは、他の株主等のステークホルダーの利益を犠牲にしている可能性があり、長期的な企業価値の増大というコーポレート・ガバナンスの観点から問題であると指摘した。
  3. 連邦議会上院は2018年6月、公聴会を開催し、議決権行使助言会社の見解には、発行体に対する長期的な企業価値の増大という観点が含まれているのか、また、議決権行使助言会社の影響力が増大した結果、長期投資を選好する投資家の意向が反映されているのか等について議論を行った。
  4. 足元の米国におけるコートレポート・ガバナンスに係る議論は、米国上場企業が長期的な視点に立って、自らの企業価値の増大を促すことを主眼としている。すなわち、単に企業の内部統制や監査といったコンプライアンス体制整備というだけではなく、米国の株式公開市場を魅力的なものにしようとする施策と位置付けられる。今後、米国の公開市場の競争力向上を主眼とした官民によるコーポレート・ガバナンスに関する動向が注目される。
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