リスク・マネジメント
野村グループは高度な金融サービスの担い手として、社会課題の解決に貢献し、持続的な成長を目指すうえで、リスク管理の高度化は、最も重要な経営課題であると認識しています。全ての役職員へのリスク・カルチャーのさらなる浸透を含め、グループ全体でリスク管理の高度化に向けた取り組みを推進しています。
リスク管理の方針
野村グループでは、一人ひとりが、リスクに関する知識を深め、リスクを正しく認識・評価し、能動的にリスクを管理します。その際、行動規範に則したリスク管理、すなわち、ルールや規則の形式的な遵守にとどまらず、その目的と背景を理解し、高い倫理観を持ってリスク管理に取り組みます。また、リスク管理上の懸念や問題が生じた場合には、上司や関連部署に速やかに報告・相談するなど、積極的に声を上げることで、組織としてリスクを正しく認識し、適切に管理します。
リスク管理およびその責任感をより強く根付かせるためには、健全なリスク・カルチャーの醸成が不可欠です。重大な損失につながりかねないリスクを可能な限り特定するため、日々の業務や、取り扱う商品のリスクの特性、影響度、および蓋然性を把握することに努めます。特定と管理が困難なリスクは、原則として回避を図ります。また、現時点では確認できない想定外のリスクが存在することを認識したうえで、金融のプロフェッショナルとしてリスクに関する知識を深め、リスクを正しく認識・評価し、管理する企業文化、すなわちリスク・カルチャーの醸成に努めます。
野村グループのリスク管理における三つの防衛線
野村グループでは、すべての役職員が能動的にリスク管理に取り組むとの認識のもと、重層的な管理体制を設けています。

第一の防衛線:リスクのオーナーとしてリスクをコントロールする部署
リスク・アペタイト・ステートメント、社規社則、および諸手続きやそれらで規定されるリスク・リミットなどから構成されるリスク管理の枠組みを遵守する責任を負います。さらに社内ルールを遵守するのみでなく、行動規範に則ってリスクを適切に管理する責任を負います。また、第二の防衛線が提供するインフラ、情報、分析内容も適切に活用しながら、自らリスクを特定・管理するための体制を整えます。
第二の防衛線:リスク管理の状況を監視し牽制する部署
リスクを適切に管理するための枠組みを策定し、第一の防衛線のリスク管理活動をサポートするとともに、第一の防衛線の事業活動がリスク・アペタイトに沿っているかを監視し、取締役および経営陣等へ報告します。また、第一線が自ら策定したリスク管理態勢を、独立した立場から評価します。
第三の防衛線:内部監査部署
行動規範に則った適切なリスク管理を実行する第一の防衛線、第一の防衛線に対するリスク管理活動のサポートや監視活動等を行う第二の防衛線のそれぞれに対して、独立した立場から有効性を検証・評価し、改善のための助言を行います。
リスク・アペタイト・ステートメント
野村グループでは、統合的なリスク管理を行うため、経営戦略の目的と事業計画を達成するために許容するリスクの種類および水準をリスク・アペタイトとして定めており、それを文書化したものがリスク・アペタイト・ステートメントです。
リスク・アペタイト・ステートメントは、経営会議の承認、およびリスク委員会の同意により設定され、その運営状況はモニタリングされています。2021年度、野村グループ行動規範に則りリスク管理を行う方針を明記したほか、三つの防衛線それぞれが果たす役割および責任を具体的に定めました。
リスク・アペタイトを設定しているカテゴリー
資本充実度と 資金流動性 |
野村グループは、規制上要求される水準、資本調達力、および事業環境を反映したうえで、維持すべき資本充実度と資金流動性の水準をリスク・アペタイトとして明確化しています。 |
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財務リスク | 野村グループは、資本充実度と資金流動性に関するリスク・アペタイトを遵守し、経営戦略の目的と事業計画を達成するために、その範囲内において各ビジネスに財務的経営資源を配賦します。 野村グループは、各ビジネスが配賦された財務的経営資源の範囲内で受け入れる財務リスクの種類と水準を、財務リスクのアペタイトとして明確化します。 財務リスクのアペタイト設定にあたっては、各ビジネスに潜在する市場リスクおよび信用リスクを、ビジネスの特性に照らし合わせて細分化し、これらの特性を捕捉するのに適切な定量的あるいは定性的な指標やプロセスを構築しています。 |
非財務リスク | 非財務リスクは、日常のあらゆる事業活動やプロセスに存在し、顕在化した場合には財務上の損失のみならず、野村グループや顧客、または金融市場に重大な影響を及ぼす可能性があります。そのため、野村グループのすべての役職員は、リスク・アペタイトに沿って非財務リスク管理を行い、リスクの顕在化を防ぐ責任を負っています。 |
財務リスク
財務リスクとは、さまざまな要因によって野村グループが保有する金融商品や金融取引のポートフォリオから損失が生じる可能性をいい、下記に掲げるリスクから構成されます。
野村グループは、これらのリスクを、(1)リミットの設定、リスク・チャージや保有制限などを行うことによりコントロールする方法、(2)債務者グループおよびポートフォリオの集中リスクについて個別審査や承認プロセスにより管理する方法、(3)新規取引について個別審議の上で実行の可否と取引条件を決定する方法、(4)要件定義とプロセス構築により堅固な枠組みを構築する方法などを通じて、管理を行っています。
カテゴリー | 定義 |
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時価変動リスク | 金利や為替、株式等、さまざまな金融市場の取引価格の変化により、資産や負債の価値が変動し損失を被るリスクをいいます。 |
市場流動性リスク | 市場の流動性に比べてポジションが過大であるために、その解消に追加的な取引コストがかかるリスク、または市場の急変によってポジションの解消ができなくなるリスクをいいます。 |
デフォルト・リスク | 当社の取引相手、あるいは当社が保有する金融商品の発行体が、債務不履行、破産、または法的手続き等の結果、あらかじめ合意した条件通りに契約上の義務を履行できないことで損失を被るリスクをいいます。 |
イベント・リスク | 内生的か外生的かにかかわらず非連続的な市場変化に起因する損失や、金融市場の変動要因以外の事由により発生しうる損失など、特殊な金融取引に伴う固有のリスクを指します。 |
モデル・リスク | 野村グループでは、金融派生商品の評価、バリュー・アット・リスクや信用エクスポージャーなどリスク値の算出、資金流動性の推計や資産評価の検証等、さまざまな業務でモデルを用いています。 これらのモデルには、単純化に伴う不確実性やモデルが前提とする市場環境における変化、あるいは誤ったモデルの使用などの要因によって、財務上の損失につながるリスク、あるいは規制要件を満たせなくなるなどのリスクが伴います。このようなリスクをモデル・リスクと呼びます。 |
非財務リスク
非財務リスクは、オペレーショナル・リスクとレピュテーショナル・リスクから構成されます。
オペレーショナル・リスク
オペレーショナル・リスクとは、内部プロセス・システム・役職員の行動が不適切であること、機能しないこと、もしくは外生的事象から生じる財務上の損失、または法令諸規則の違反や野村グループの評判の悪化といった非財務的影響を被るリスクをいいます。野村グループでは、オペレーショナル・リスク事象の報告、リスクとコントロールの自己評価(RCSA:Risk andControl Self Assessment)の実施、KRI (KeyRisk Indicator)によるモニタリング、シナリオ分析の実施の4つの主たる活動を通じてオペレーショナル・リスク管理を行っています。管理対象としているオペレーショナル・リスクは下表の10のカテゴリーに分類されます。
なお、コンプライアンス・リスクには、野村グループの役職員のコンダクトが金融機関に求められる社会規範・倫理を逸脱し、顧客保護や市場の健全性に悪影響を及ぼすリスク(コンダクト・リスク)が含まれます。
カテゴリー | 定義 |
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コンプライアンス・リスク | 法令諸規則の違反や、金融市場の公正性・公平性の阻害や顧客の保護を損なう不適切な行動により、制裁金等の財務的損失もしくは評判の悪化を被るリスク |
法的リスク | 野村グループの法的権利や法的強制力を担保できない不明確、不十分な契約条項、法令諸規則への違反、法令諸規則の変更への対応不備により、財務的損失もしくは評判の悪化を被るリスク |
ITおよびサイバーセキュリティに関わるリスク | システムのパフォーマンス低下や停止、データ破損、社内外からの権限外アクセスやそのほかの不適切なアクセスにより、財務的損失もしくは評判の悪化を被るリスク |
事業継続に関わるリスク | 障害発生時に正常な業務運営を維持できなくなることや、自然災害等によって有形資産が損傷を受けることにより、財務的損失もしくは評判の悪化を被るリスク |
外部委託先に関わるリスク | 重要な業務を社外の第三者へ委託した結果、委託先の不備により、財務的損失もしくは評判の悪化を被るリスク |
財務報告および税務上のリスク | 対外的な財務報告、当局報告、または社内の財務管理報告における重要な虚偽記載または不作為、もしくは税務申告または納税の重大な誤りにより、財務的損失もしくは評判の悪化を被るリスク |
人材リスク | 労働安全衛生上の法令諸規則または雇用慣習や雇用契約に反する行為により、財務的損失や役職員への悪影響もしくは評判の悪化を被るリスク |
取引処理上のリスク | 取引処理やプロセス管理のエラーにより、財務的損失もしくは評判の悪化を被るリスク |
プルデンシャル・リスク・フレームワークに関わるリスク | 会社の安定性と健全性を促進するためのリスク管理体制が不十分であることにより、財務的損失もしくは評判の悪化を被るリスク |
不正リスク | 役職員や外部の第三者による意図的な搾取、財産の横領または未承認の行動等により財務的損失や評判の悪化を被るリスク |
レピュテーショナル・リスク
レピュテーショナル・リスクとは、野村グループのステークホルダーから見た場合に、不適切、非倫理的、または野村の価値観や企業理念と矛盾していると判断される行為等が行われた結果、野村グループの評判を損なうリスク、またそれに伴い当社の利益、資本、流動性が影響を受けるリスクをいいます。野村グループのすべての役職員は、自らがとった行動あるいは行動を起こさなかったことが野村グループの評判に与えうることを認識し、「野村グループ行動規範」に定められた高い基準に沿って自らの行動を律するものとしています。
リスク管理の組織体制
当社では、効果的な事業運営とリスク管理のために次の組織体制を整備しています。
2022年10月現在

リスク委員会
執行からの独立性を確保するため、社外取締役を委員長とし、取締役会による野村グループのリスク管理の監督を補助し、リスク管理の高度化に資することを目的として運営されます。リスク委員会は、リスク・アペタイト・ステートメントやリスク管理フレームワークの主要設計に関する同意、リスク環境の分析・検証結果および今後の予測、さらにリスク管理全般の執行状況および中長期的なリスク戦略の監督を行います。
経営会議
野村グループにおける経営戦略および経営資源の配分並びに経営に係る重要事項を審議、決定します。経営資源の有効活用と業務執行の意思統一を図ることにより、株主価値の増大に資することを目的として運営されます。主な役割には、経営資源の配賦やリミットの承認、事業計画や予算の承認、さらに取締役会への報告が含まれます。
グループ・リスク管理委員会
業務の健全かつ円滑な運営に資することを目的として、経営会議の委任を受け、野村グループの統合リスク管理に係る重要事項を審議、決定します。執行側におけるリスク管理に関する意思決定機関として、リスク・アペタイトに整合した統合リスク管理の枠組みの整備を行うほか、リスク管理の体制強化について、ビジネス部門からの報告を受け、必要な審議を行います。