特別対談:サーチファンドの実現するサステナビリティ

社会課題解決の手段として注目されるサーチファンドについて、野村ホールディングスの鳥海智絵執行役員(サステナビリティ推進担当)と、ジャパンサーチファンドアクセラレーターの嶋津紀子社長が対談しました。

サーチファンドとは

野村ホールディングスの鳥海智絵執行役員(サステナビリティ推進担当)

鳥海:

2021年12月、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーはジャパンサーチファンドアクセラレーター(JaSFA)と協働し、ジャパン・サーチファンド・プラットフォーム(JSFP)を設立しています。「サーチファンド」とはどういうものでしょうか?

嶋津:

サーチファンドは、1984年にアメリカで誕生した投資モデルです。優秀で意欲のある若者が投資家から資金を集め、自分が社長となり承継する中小企業を探し、買収するために「サーチファンド」を設立します。社長を目指して会社を探す(サーチする)若者はサーチャーと呼ばれます。

サーチャーは、通常5~7年かけて企業価値向上に取り組み、上場や第三者売却などのイグジットを迎えます。この仕組みを活用して、日本において高齢化に伴う後継者不足といった社会課題を解決しながら、投資家にもプライベート市場の収益機会を提供できると考えています。

全国のお客様から事業承継のニーズが寄せられ、法人向けのM&Aアドバイザリーや資金調達、資産運用までさまざまな金融サービスを提供する野村と、サーチャー採用や企業価値向上に強みを持ち、サーチファンドによる事業承継案件の実績を有するJaSFAが協働することで、全国の事業承継の課題を抱える法人に第三者承継の選択肢を提供し、次世代を担う優秀な人材に活躍の場を提供しながら、企業価値向上を通じて地域経済の持続可能な発展に貢献することができます。

サーチャーが事業承継する会社を選ぶ

鳥海:

優秀なサーチャーを、どのように探されているのでしょうか。

嶋津:

サーチファンドのモデルを知ったサーチャーから多くの応募があり、またサーチャー希望者が紹介されることもよくあります。MBA留学前の興味のある方向けにも説明会をしています。基本的にはサーチャーになりたいという能動的な姿勢を大切にしています。サーチャー希望者は、コミュニケーション能力や行動力、人望などをJSFPが総合的に評価しています。サーチャー本人が承継会社を決めるということもモチベーション維持のために重要です。キャリアを自分の手で切り開きたいというサーチャーのニーズにマッチしています。準備の整ったサーチャーから、JSFPの支援のもと、順次サーチ活動(事業承継)をはじめる予定です。

サーチャーが事業承継先の発掘から、直接オーナーと交渉することまで一貫して対応するのがサーチファンドの肝です。サーチファンドではまだ承継ニーズや売却ニーズが固まらない中小企業に対しても、サーチャー自らが後継者候補として可能性を探っていきます。また、売却して取引が完了するのではなく、事業承継後にサーチャー自らが企業価値向上に注力する点がこれまでの他の仕組みと大きく異なります。企業を紹介いただき事業承継に繋げるためにはサーチャーの人柄も重要です。

また、サーチャーの気持ちも大切です。サーチファンドはなぜうまくいっているのかという研究はビジネススクールにあり、要因としてコミットメントやモチベーションにたどり着くことが多くあります。誰かに業務をアサインされたり、ファンドでポートフォリオ管理をするのではなく、サーチャーが承継する企業を自ら探して決断し、1対1で交渉して事業承継することでコミットメントがより高くなります。

最初は資金調達しようとすると、サーチャーを希望する人がいると思えない、オーナーは会社を売ってくれない、サーチャーは資金がないのに会社を辞められない、オーナーは優秀な人材が来ると思えないなどなかなか事業が動きませんでしたが、地道に活動を行って成果を知ってもらう事により、今回無事に資金調達ができました。
次に大変なのはマッチングです。サーチャー候補者の地域、業種などの希望から、候補となる企業を選んでもらい、事業承継が完了するまで伴走支援します。

会社を売却することに抵抗感があると過去と言われてきましたが、婿養子文化などに代表されるように、外からきた若い方が経営を担うことに意外と抵抗感がないようなケースも見受けられます。サーチファンドはまず人を見て継がせるか決め、それから売却の意思決定をすることができます。

世界から注目されるサーチファンド

ジャパンサーチファンドアクセラレーターの嶋津紀子社長

鳥海:

JaSFAを立ち上げたきっかけは。

嶋津:

アメリカのスタンフォード大学にMBA留学をしていた際、ベンチャー企業やアントレプレナーシップを学ぶ授業を選択すると、その中でサーチファンドの授業がありました。サーチファンドはスタンフォードから発祥し、今は米国や欧州に広がっています。授業では、事業承継する企業を探すサーチ活動をするときにどのように判断し、承継を希望する企業のオーナーとどのように交渉するか、事業承継後の課題についての従業員と調整、また投資家とのコミュニケーションや資金調達など、さまざまなケースを学びました。プレゼンターとしては、サーチャー、経営者、投資家が登壇しています。

鳥海:

今回の御社と野村の取り組みは海外でも報道されましたね。

嶋津:

サーチファンド自体が、グローバルで新しい金融業態として注目されています。収益性の高いオルタナティブ投資のモデルとして特に欧米において注目度が高く、アジアや日本の状況に非常に関心が持たれています。高齢化により事業承継問題が大きな社会課題となっている日本でもサーチファンドが機能することが分かれば、ぜひ参入したいという投資家の声を聞きます。

野村のサーチファンドへの取り組み

鳥海:

野村證券には、事業承継を希望するご相談が数多く寄せられていますが、サーチファンドを活用するためには具体的にどのように進めていくことになるのでしょうか。

嶋津:

サーチャーの意向を確認し、野村證券などと連携しながら、マッチングする会社を紹介します。まずは、サーチャーを野村證券の皆さんに知っていただき、ぜひ会社を紹介したいと思っていただくことが最初のステップです。経営者の方にまずはサーチャーと一度会ってみたいと思っていただき、そこから事業承継に繋げていくのがサーチャーの役目です。

鳥海:

若いうちから自分事として意思決定していくことは、経営者人材の育成にも繋がります。

嶋津:

現在サーチャーになりたいとお問い合せを頂いている方は30代前半から40代後半までが多いですが、今後早期退職者等も選択肢として考えられます。日本にとってサーチャーという職業が新しいキャリアオプションとして根付くよう取り組んでいきたいと思います。そのためには、インセンティブ設計も重要だと考えています。グローバルでは、サーチャーに対しサーチ期間は就職する場合と同様に給与を支払い、社長になるとその業界の経営者の平均程度プラス成功報酬が支払われるのが一般的です。成功すれば、スタートアップで成功するのと同程度のリターンを期待できます。

嶋津:

野村がサーチファンド業界に参入したことは、業界には驚きとして捉えられています。海外では野村のようなグローバルな金融機関がコミットしている例はまだないんですね。これだけ大規模な仕組みとしてサーチファンドを支援する動きが出ているのは日本独特です。

鳥海:

そもそもインベストメント・バンクという意味では野村は異色ですよね。全国津々浦々に支店があり、強いリレーションが各地にあるというのは他のグローバルの投資銀行ではありません。

嶋津:

野村は地域中立とリレーションが両立するという意味で画期的です。

鳥海:

サステナビィリティ推進担当として、昨年10月にサステナビリティに特化した投資家向けIRイベントを初めて開催しました。その際、社会課題を解決するための野村の固有の強みとしてサーチファンドにも触れています。野村がパートナーを全国に擁する意味、対面証券会社のモデルはどうなっていくのかということが問われる中で、「人」が重要なサーチファンドの仕組みは、差別化を図る要因になります。日本的な課題を解決する日本的なやり方、かつ当社だからできるという意味で我々の目指す方向と親和性があります。

海外の経済紙にも掲載されたことで、ロンドンのサステナビリティ担当者からもサーチファンドについて問い合わせがありました。海外でも野村のサステナビリティな取り組みを開示していますが、日本固有の課題に対してどのように解決を図っているのかを聞かれることが多くあります。サーチファンドは、国際社会に向けて紹介できる取り組みです。

嶋津:

日本でのサーチファンドから、高齢化の進むアジアの中で海外展開できる余地が将来的にあると考えています。未上場の中小企業に成長資金を投入し、イノベーションを促進するためには、直接金融のさらなる活用がこれからのキーワードになるでしょう。

鳥海:

野村の業のコアは流動性を作っていくことにもあると考えています。過去は有価証券を中心に流動性供給を担っていましたが、今後は、人や技術、会社など、あらゆるものに流動性をつけていくことがミッションの一つになるのではないでしょうか。

また、全国に数千人の優秀なパートナーを擁しており、人を介して繋ぐことができることに意味があります。これからやっていくべきこととサーチファンドはまさにマッチしていて、非常に楽しみにしています。

サステナビリティの取り組みとして、やはり業としてお客様、ステークホルダーの社会課題を解決していくことがメインであると考えています。最重要の取り組みとしてはサステナブルファイナンスなどがありますが、金融取引に限らず、このような取組みを推進していきます。