2024年5月14日
総務省統計局によると、2021年にゴルフをした(練習場含む)人の数は約774万人だったそうです※。皆さんの中にも一度ぐらいは打ちっ放しに行ったことがある、または週末にゴルフ中継を楽しんでいるという方も多いでしょう。日本だけでなく、世界中で老若男女問わずに親しまれているスポーツですが、その起源ははっきり分かってはいません。今回は諸説ある中からその一部をご紹介します。
出典:「令和3年社会生活基本調査結果」(総務省統計局)
多くの人が耳にしたことがあるのがこの説でしょう。スコットランドの羊飼いたちが仕事中の退屈しのぎ?に、目の前に点在するウサギの巣穴に向かって木の棒で石ころを転がし、上手く、あるいは少ない回数で入れられるかを競った、というものです。なぜスコットランド起源説が根強いのかと言うと、1457年にスコットランド国王ジェームズ2世が発令した「ゴルフ禁止令」にあります。夢中になった民兵が訓練を怠けてしまうのを避けるための命令で、「ゴルフ」の言葉が残る世界最古の公文書です。
一方、17世紀のオランダでは「コルベン(kolven)」や「コルフ(colf)」と呼ばれる、現在のゴルフに近いものが行われていたと言われています。でもスコットランドの「ゴルフ禁止令」が1457年だから、そちらが先では?と思うかもしれません。実は、それより前の1300年代に「ショートゲーム」(短い距離)で行われていたことを示す記録が残っています。長い距離をプレーする現代のゴルフに近いものは、商人によってオランダからスコットランドに伝わり、17世紀ごろからイングランドで一気に増えていった、というのが「オランダ起源説」です。
いずれにしても起源はヨーロッパにある、と思いきや、「中国発祥説」も。宋元代の中国では「捶丸(すいがん)」と呼ばれる球技が盛んに行われていました。その起源とされるのが唐代の「歩打球」で、木の棒でボールを転がし穴に入れるルールがゴルフに似ていると言われています。最近では、中国・河南省の大学が、所蔵する陶磁器標本の整理をするなかで、捶丸で使われたとみられる大量の球が見つかったと発表しました。多くは直径5センチ程度で、現在の公認ゴルフボール(直径4.267センチ以上)に非常に近く、さらに表面には「ディンプル」によく似た窪んだ形状があるものもあったと言います。
ちなみにスコットランドなどでは、1600年代以降、牛革の袋の中に羽毛を詰めた「フェザリーボール」と呼ばれるものを使っていたのが、1800年代半ばになると主流はゴムを原料とした「ガッタパーチャボール」になりました。もともと表面はツルツルしていたのが、使っているうちに傷が付くと飛距離が伸びることが明らかになり、ゴルファーはこぞって意識的に傷を付けるようになりました。これが「ディンプル」のきっかけです。それが約1000年も前の中国ですでに形作られていたのでしょうか。
河南省平頂山市のすぐ隣には、アジアとヨーロッパを結ぶ古代通商路「シルクロード」の起点と言われる洛陽市があります。ゴルフは時をかけ、中国からヨーロッパ大陸を経てスコットランドまで伝わった、という壮大なストーリーがあるのかもしれません。今回紹介した以外にもゴルフの起源には諸説あり、はっきりとはわかっていません。ですが、わからないからこそ、神秘的な魅力に世界中の多くの人がとりつかれるのかもしれません。
文:森伊知郎