サステナビリティNOW #9関東大震災から100年。防災への備え、できていますか?

9月1日は「防災の日」。100年前(1923年)のこの日に関東大震災が起きたことや、一年の間で台風が多く発生するのが9月であることなどの理由により、防災啓発デーとして1960年に制定されました。そもそも日本は地震や台風、火山噴火など自然災害が発生しやすい国土であることに加え、近年では地球温暖化の影響による異常気象もその深刻さを増しています。「防災の日」にあわせ、今回は減災と男女共同参画 研修推進センター共同代表の浅野幸子さんをお迎えし、災害発生時の心得などについてお話をうかがいました。

大震災が“身近”にあった、浅野さんの幼少時代

「線状降水帯という言葉を今年は何度も聞きました。9月1が『防災の日』でもありますし、自然災害に対する備えや意識を高めるためにお話を聞かせていただければと思います。まず、浅野さんはどういったきっかけで防災に関心を持つようになったのでしょうか」(谷垣)

浅野さんが生まれ育ったのは東京都台東区の浅草。関東大震災で当時の浅草区(現在の台東区東部)は90%以上が焼失しました。その後の再建事業で建てられた「復興小学校」に通っていたことから、焼野原になった町の写真を見る機会が多く、幼い頃から災害は悲惨なものだと感じていたと言います。「中学に入ると『近い将来起きると予想される』東海地震に備え、家族との待ち合わせ場所を決めたり、通学時にはラジオやペンライトを持ち歩いたりするような子どもでした」(浅野さん)

そんな浅野さんが大学を卒業する直前の1995年1月17日に起きたのが、「阪神・淡路大震災」です。もともと福祉や格差問題に関心があり、社会学部で勉強していた浅野さんは学生ボランティアとして現地へ。4月以降はそのままNGOスタッフとなり、4年間復興支援に携わりました。この経験を通し、災害とジェンダー問題を目の当たりにしたことがきっかけで、現在の「減災と男女共同参画 研修推進センター」での活動に至ります。

災害時に性別や立場で異なる問題点

被災した人たちが直面する問題は性別・世代やそれぞれの状況によって異なります。とりわけ女性や女児は自然災害による影響を受けやすいことが国際的に認知されていて、災害予防・緩和・復興戦略にジェンダーの視点を組み入れる必要性は国連の防災政策に盛り込まれています。国内で見られる問題として具体的には、避難生活時のプライバシーやトイレ・衛生、生理用品や下着などの女性用品や育児・介護用品等の不足、DVや性暴力、さらに、家族ケアの役割増や家族ケアと仕事の板ばさみになりやすい、といったことが挙げられます。加えて、避難所運営のリーダー層や自治体の対策本部に女性がほとんどいないため、こうした課題が改善されにくいという現状もあります。

阪神・淡路大震災が発生した際にもさまざまな問題が起きていましたが、なかでも暴力については調査が不十分で被害届が出ていなかったことから、問題が社会的に十分共有されませんでした。対策が進まないまま東日本大震災が起き、同じことが繰り返されてしまったといえます。

そこで2011年5月、「減災と男女共同参画 研修推進センター」の前身である「東日本大震災女性支援ネットワーク」が立ち上がりました。目的は、被災した人々の多様性に配慮し、特に脆弱である女性の権利が保障される環境を作ること。ネットワークでは、災害時の女性や子どもに対する支援の実態調査に加え暴力調査を日本で初めて実施し、実態を報告書にまとめて発表すると、メディアなどで大きく取り上げられるようになりました。

また、被災者を支援する行政やボランティア団体などにジェンダーの視点を持ってもらうことが重要との思いから、『こんな支援が欲しかった!~現場に学ぶ、女性と多様なニーズに配慮した災害支援事例集~』を作成しました。避難所で女性がリーダーシップを発揮し環境が改善された例、子どもの立場に立った支援例、ひきこもりやアルコール依存症になりやすい男性支援例など、40を超える好事例が掲載されています。

状況改善 女性参画の事例

「女性ならではの課題は女性じゃないと見えない事は多いですよね。女性にとって安全な環境を作るためには、『育休』と同じように男性が自分ゴト化できるようになることと、行政や自治体の防災担当に多くの女性が関わるようになることの両方が必要だと思うのですが」そう谷垣が言う背景には、日本にある1,741市区町村の防災会議委員に占める女性の割合が、わずか10%に留まるという現実があります。

防災・復興、環境問題における男女共同参画の推進

男女共同参画局「第5次男女共同参画基本計画における成果目標の動向」(2023年4月30日時点)より

大規模災害発生時は自治体が対策本部を立ち上げますが、「このメンバーになるのは部長級以上。そもそも管理職に占める女性の割合が相対的に低いため、男性ばかりの組織となり、女性目線が欠けてしまう」と浅野さんは問題点を指摘します。女性の困難は、家族ケアに関する問題とも多く重なることから、女性の視点が反映されないと、衛生・栄養・育児・医療・介護といった面で、全ての被災者支援の質の全体的な低下につながりかねません。

女性が指揮を執った好事例として浅野さんが挙げたのが、熊本地震で甚大な被害に見舞われた益城(ましき)町の避難所です。「町議経験もある女性リーダーが、我慢・辛抱ではなく『日常生活に近い環境を作ろう』と声を上げました。ひとつの場所で寝て・起きて・食べて、を繰り返していると病人のような気持ちになり、過去の震災では高齢者のフレイル(加齢により心身の機能が弱くなった状態)が進んだケースがあります。そのため、寝る場所と食事をする場所を分けて生活にメリハリをつけました」。さらに、「男性はリーダー、女性は炊き出し」といった、性別による固定的な役割分担はなくし、特定の人に負担が偏らないようにもしました。「やれる人がやれることをやる」方針にしたことで、避難者がそれぞれの事情に配慮したいい運営ができたそうです。

「お家キャンプ」で楽しみながら避難生活のシミュレーションを

「第5次男女共同参画基本計画」では、市町村防災会議に女性がいない組織数を早期にゼロにするとともに、女性委員割合30%(2021年は9.3%)を目指すとしています。しかし待っている間にも災害は来るかもしれないし、普段から一定の備えはしておきたいもの。そこで谷垣は「防災への心構えやノウハウがあれば教えていただけますか」と質問しました。

浅野さんは「キャンプの延長線上で、自宅で電気、ガス、水道が2~3日使えない状況を想像してみましょう」と提案します。米や乾物、缶詰をカセットコンロで料理するといったことは家でも試しやすいでしょう。お湯が無くても水だけで作れるアルファ米やパスタは種類が豊富にあるほか、「レトルトパックのおかゆは水分がたっぷり取れるし調理の必要もない。ささ身の缶詰や胡麻油を足せばちょっとお洒落な中華粥に変身するし、ストックしておけば風邪の時にも便利です」と教えてくれました。これを聞いた谷垣は「非常食に乾パンを置いていますが、日常で食べることがないので気付くと賞味期限が過ぎていることも。我が家も非常食はおかゆにします」とさっそく採用していました。

浅野さんのもう一つのオススメは、長期保存が可能な食品を「保険」として少し買い溜めておき、普段使いやすいものをローリングストックすること。無理なく非常時に対応できます。災害時と同じような条件で料理を作り慣れておけば、いざという時の戸惑いも減らせるかもしれません。

停電時にトイレは使わない!

そして、浅野さんが注意してほしいと訴えるのが、トイレ。停電で上下水道が停止している時はトイレを使わないことを覚えておきましょう。

東日本大震災時の計画停電でトイレが使えなくなった経験のある谷垣は、「非常用トイレと、ペットがいるのでトイレシートは備蓄があります。ペット用シートは災害時のトイレに役立つと聞いたことがありますが、どう使うのか普段から意識していないと、とっさの時に難しいですね」(谷垣)。「トイレに関しては、大人だけではなく家族全員が分かっておくようにすることが大事です。子どもが知らずに使い、うっかり詰まらせでもしたら大変です」(浅野さん)。公共のインフラ復旧が最優先の状況では一般家庭に修理が来るのはずっと先。電気が復旧してもトイレが使えない悲劇になりかねません。「トイレはみんなでトレーニングです」。

普段から防災ポーチを持ち歩いている

災害発生時に家にいるとは限らない。外出先で被災しても困らないよう普段から携帯するといいもの、あるいは非常持ち出し品として家やオフィスに常備しておくといい物には、どんなものがあるのでしょう。

「普段から防災ポーチを持ち歩き、中には生理用品や除菌シート、持病の薬以外に、70リットルのビニール袋を2枚入れています。雨に濡れないようにしたり、寒かったら着たり、物をまとめるのにも便利です。それと目が悪いので破損や紛失に備えて古い眼鏡を予備に入れています」(浅野さん)。このほかに携帯用充電器やアメ・チョコレートなどもあると安心です。

浅野さんの自宅にある「非常持ち出し品」に入っているのが、大きな防水の風呂敷。被れば雨や風をしのぐことができ、水も運べるほか、間仕切りや、外で用を足さなければいけなくなった場合は体に巻くなど、用途が広い便利アイテムです。「デザインの可愛いものにすれば、気持ちも明るくなります」(浅野さん)。

小さな子どもがいる家庭の場合は、電源のいらないおもちゃをいくつか用意しておくと役立ちます。また、休日に「防災まち歩き」を一緒にやってみるのもいいでしょう。子どもが一人だけの時に被災する可能性は十分あるため、学校から自宅、あるいは自宅から避難所といったルートを、「ここは危ないから、災害時はこっちを通った方がいいね」と楽しみながら確認しておけば、いざという時のリスクを少し減らせるかもしれません。

もちろん、地域での助け合い活動も不可欠。知り合いを増やすことも大切なため、防災訓練にも積極的に参加してみるとよいでしょう。

さらに浅野さんは以下の情報サイトとアプリを紹介してくれました。

備えあれば憂いなし。こうしたものを知っておくことや、「避難生活シミュレーション」などで防災への意識を高めておくことで、いざという時に自分や家族の安全を守ることにつながります。

浅野幸子氏
阪神・淡路大震災に際して学生ボランティアから国際協力NGOのスタッフとなり、在宅避難者・仮設住宅・全焼地域の復興まちづくりの支援に4年間従事。その後、市民団体で働きながら大学院でも研究を行う。2011年6月に発足した東日本大震災女性支援ネットワークの活動に参加。2014年4月より、後継団体である、減災と男女共同参画 研修推進センター 共同代表。主な分野は地域防災。博士(公共政策学)。内閣府の「避難所運営ガイドライン」をはじめ、国・自治体の防災政策にもかかわる。

撮影:花井亨

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