野村資本市場研究所 三宅 裕樹
- はじめに
	
- 拡大するわが国地方債市場
 - 本稿の内容
 
 
- 欧米地方債市場の多様性
	
- 欧米地方債市場の規模
 - 各国地方債市場の特徴・多様性
 
 
- 財政規律の確保とリスク管理
	
- 地方債発行の枠組みと財政規律
 - 起債自主権の確立
 - 発行条件の設定における基本方針の設定と専門家の活用
 - 財政状態が悪化した場合の対応
 
 
- 情報インフラの整備
	
- 地方政府による情報開示
 - 格付けの取得
 
 
- 地方債の共同発行と地方債ファンド、カバード・ボンド
	
- スウェーデン地方債市場で大きな位置づけを得ているコミュンインベスト
 - 米国における共同資金調達機関
 - ドイツで普及している共同発行地方債
 - 共同での資金調達の利点と課題
 - 地方債ファンドとカバード・ボンド
 
 
- わが国の現状と得るべき示唆
	
- 求められる財政規律の回復とリスク管理
 - 債券投資家を対象とした情報提供
 - 地方債の共同発行制度の今後のあり方と、地方債ファンド等の可能性
 
 
- おわりに
 
- わが国の地方債市場は、地方債発行残高が高止まりする中で、公的資金から民間資金へのシフトが進んでおり、今後、市場公募債を中心とした拡大が予想される。
 - 欧米先進4カ国(フランス・スウェーデン・ドイツ・米国)の状況をみると、地方債市場の様相は多様である。その一方で、共通点や広くみられる取り組みも存在する。まず、地方債の発行の枠組みについては、起債目的は投資的事業の経費の調達に原則的に限定されている。その上で、調達コストを抑制するべく、起債自主権を活用し発行条件を多様化している。併せてリスクの管理体制も整えられている。
 - また、地方債市場の情報インフラの整備も進んでいる。債券形式で起債される場合、目論見書を作成したり、格付けを取得するといった動きが広くみられる。
 - さらに、共同債券の発行や専門金融機関の創設といった、複数の地方政府が共同で資金調達する取り組みも行われている。そこでは、コストの抑制を図れるなど、発行体にとってのメリットがあると考えられる一方、モラル・ハザードの可能性という課題もある。また、投資家が、複数の地方債を一つのポートフォリオにまとめて運用することを容易とする地方債ファンドやカバード・ボンドも普及している。
 - わが国では、地方分権改革の進展、地方財政の健全化の要請、予想される地方債市場の拡大といった背景を受けて、今後の地方債市場のあり方についての議論が高まってきている。すでに改革も一部で進展しつつある。欧米4カ国の地方債制度・市場から得られる示唆は大いなるものがあるといえよう。