野村證券市場戦略リサーチ部 シニア・エクイティ・ストラテジスト 元村正樹
当欄に巳年の日本株式市場について振り返った拙稿を書いてから、早くも1年が経過した。2025年には、2024年に続いて日経平均株価が史上最高値を更新し、初の5万円台に到達した。また、国内政治においては、わが国で初めての女性首相である高市首相が誕生した。1年前に、過去の巳年には株式・金融市場にとっての転換点や節目となったり、印象深い出来事が発生したりしたと述べたが、2025年の巳年もこれに十分に当てはまる年であったと言ってよいだろう。
さて、来年2026年は午年である。過去の午年を振り返ってみると、残念ながら株式市場の成績はよろしくない。日経平均株価が算出されて以降の6回の午年を見ると、上昇と下落が3回ずつ。年間騰落率の平均はマイナス5.0%と、十二支の中で唯一のマイナスである。相場にまつわる「辰巳天井」という言葉が生まれたのも理解できる。
前回の午年である2014年から順に振り返ってみよう。2014年の日経平均株価は、年間で7.1%上昇した。NISAの導入開始による資金流入期待はあったが、前年の大幅高の反動に加えて、米中の景気減速懸念や4月の消費税率引き上げに対する懸念などもあり、年前半は日本株の低迷が続いた。しかし、10月にはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国内株式の運用比率を引き上げる方針であると報道され、また、日銀が量的・質的金融緩和を拡大した。これらが投資家心理の好転につながり、日本株は年末にかけて上昇した。2014年の前の午年は2002年である。この年は米国の金融政策運営方針が3月に景気配慮型から中立へと変更されたことや、米大手通信会社の経営破綻(当時、米国史上最大の経営破綻)などにより、米国株が軟調に推移した。日本株も米国株に連動して下落し、さらに主要行の不良債権処理の加速や金融システム不安の燻りなどもあって、日経平均株価はバブル崩壊後の安値を更新。年間では16.8%の下落となった。
1990年の午年には、バブル相場の最終盤であった前年から一転して日本株は暴落症状を呈した。前年に4万円に迫りつつあった日経平均株価は、10月1日の取引時間中に一時2万円を下回った。年間騰落率マイナス38.7%は、国際金融危機に見舞われた2008年(マイナス42.1%)に次ぐ、史上2番目に大きな下落である。1978年の日経平均株価は、23.4%上昇した。この年は為替市場で急速な円高が進んだが(前年年初の1ドル291円から、10月には一時1ドル175円まで円高が進展)、1975年から続く米国景気拡大の恩恵を受けたことや、円高対策として公定歩合が戦後最低水準まで引き下げられたことなどが、日本株の上昇を支えた。
1966年の日経平均株価は、2.4%の上昇にとどまった。1965年に政府は四十年不況からの脱却を目指して「国債発行を認めない均衡財政政策」を修正し、長期国債の発行を含む景気対策を発動した。これが1970年半ばまでの「いざなぎ景気」の起点となり、1966年の3月までは日本株の上昇が続いた。しかし、供給過剰だった株式を1964~65年にかけて買い上げた日本共同証券および日本証券保有組合が、保有株式の放出に踏み切った。そのため、景気拡大下でも日本株の動きは重かった。戦後の取引所取引再開後に迎えた最初の午年である1954年には、日経平均株価は5.8%下落した。1953年に朝鮮戦争の休戦が成立し、朝鮮特需の反動で日本が景気後退に陥ったためである。米国株(NYダウ)が1929年の大暴落前の水準を25年ぶりに取り戻して最高値を更新したのとは対照的な動きだった。
戦時中の午年である1942年には、フィッシャー式株価指数が26.5%上昇した。前年から始まった太平洋戦争は、6月のミッドウェー海戦における敗戦で転換点を迎えており、日本株は翌1943年にピークをつける。ただし、この時点では日本が拡大した勢力圏をまだ維持していたこともあり、株価の上昇が続いた。1930年には、フィッシャー式株価指数が26.6%下落した。この年に日本は金解禁(金本位制へ復帰)を実施したが、世界恐慌の発生と重なる時期であったことが災いした。金解禁後に卸売物価が下落して国内市場は縮小し、円高によって米国向け輸出が急速に落ち込むなど、日本経済は少なからぬ打撃を受けた。
このように過去を振り返ってみると、株高であっても上昇率が小さかったり、不安定さを抱えながらの上昇であったりと、すっきりしない年が多い。また、前年の巳年に株式市場が活況を呈した(活況過ぎた)結果、午年の株価推移が思わしくなかったという年も見られる。冒頭に述べた通り、2025年に日経平均株価は初めて5万円台に到達したが、AI・半導体関連の一部の企業に牽引されての上昇であった。この点は、日経平均株価が一部の企業に牽引されて当時の最高値を記録した1989年と類似した面がある。もっとも、1989年とは違い、予想される企業業績と株価を比較する限り、現状はバブルと呼ぶにはほど遠い(バブル期当時と同じ尺度で株価が上昇していたとすると、今頃日経平均株価は20万円を目指しているはずである)。一部に期待先行的な株価の動きがあったとしても、主要企業における企業統治の強化と着実な利益成長が、中長期的に日本株の上昇を支えるだろう。