持続的成長性の可視化と株価に内包されたインパクトの定量化
~生成AIを活用した共通アウトカム・ラベルの作成~
論文2023年11月24日
野村證券金融工学研究センター クオンツ・ソリューション・リサーチ部 太田 洋子、阿久澤 利直、倉持 純太
野村證券フロンティア・リサーチ部 中野 友道
野村證券IBビジネス開発部 林田 稔
目次
- I.はじめに
- PBR向上と持続的価値創造
- 潜在価値とインパクト
- 本研究の流れ
- II.インパクト可視化に関する既存のアプローチ
- 価値創造プロセスのフレームワークとロジックモデル
- アウトカム指標によるインパクト可視化の事例
- 既存のアウトカム指標分類体系と問題点
- III.潜在価値の可視化
- 標準アウトカム指標カタログの作成
- 標準カタログからアウトカム・ラベルの抽出と価値創造プロセスの生成
- 課題及び今後の展開
- IV.アウトカム・ラベルによる株価に内包されたインパクトの定量化
- PBRプレミアム・ディスカウントの推計
- アウトカム・ラベルによるPBRプレミアム・ディスカウントの分解
- V.インパクト可視化・定量化の意義
- 投資家と上場企業の建設的な対話における意義
- 未公開ベンチャー企業における意義
- 株価バリュエーションにおける意義
- M&Aバリュエーション等への応用
要約と結論
- 本研究では、時価総額のうち、財務情報やマクロ要因で説明できなかった企業固有の価値を「潜在価値」と定義し、これが企業の持続的成長性の源泉であると捉えた。欧米企業の株価から推計した潜在価値には中長期の期待成長性が織り込まれていたが、日本企業には平均的に見て確認できなかった。一方、インパクトレポート掲載企業の潜在価値は概ねプラスだったことから、長期投資を基本とするインパクト投資家は潜在価値の中身を評価し、そこに持続的な成長を期待して投資していると考えた。
- 企業は自社が実現するインパクトをアウトカムで説明する場合が多いが、投資家からは個社性が強く、横比較が難しい点が指摘されている。そこで本稿では、生成AIを活用してアウトカム指標の標準化カタログを作成した。その後、生成AIに、企業のHPのテキスト文を読ませた上で、カタログから適切なアウトカム指標を抽出させ、それらを使って価値創造プロセスを作成し、潜在価値の中身を可視化した。さらに、標準化カタログから抽出したアウトカム・ラベルを説明変数に取り込んだ株価バリュエーションモデルを開発して、潜在価値を分解し、株価に内包されているインパクトの価値を推計した。
- 投資家と企業の対話において、標準化されたアウトカム・ラベルを使って価値創造プロセスについて議論することは、本来多くの日本企業が持っているはずの潜在価値をアピールする上で有効であろう。潜在価値が明らかになることで持続的成長への期待が高まり、それが株価にも反映され、日本企業の競争力向上に繋がることを期待する。また投資家においては、企業のインパクトに注目し、社会全体の持続可能性を追求する企業に投資することで、投資ポートフォリオを持続可能なものにすることができる。
- 今回のカタログやアウトカム・ラベルはプロトタイプだが、鋭意改良に取組み、近い将来インパクト評価の有用なツールとなることを目指していきたい。社会的・環境的インパクトにつながる事業戦略やイノベーションに対する市場評価が特定できれば、インパクトに関心を持つ投資家が増え、より多くのリスクマネーがインパクト・プロジェクトに集まり社会課題の解決が進むことを期待する。