事業会社におけるESG ~発行体および投資家として~

事業会社におけるESG ~発行体および投資家として~

SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて世の中の関心が高まるなか、事業会社が投資家となってSDGs債を購入し、自社の取り組みを強化するケースが増えています。サステナブルファイナンスの裾野拡大に向けて、2021年7月2日、野村グループは、事業会社にとってのESGの考え方、ESG投資に取り組む意義などをクローズアップしたセミナーをオンラインで開催しました。

講演『事業会社にとってのESG/SDGs』

江夏 あかね
野村資本市場研究所
野村サステナビリティ研究センター長

発行体・投資家どちらのサイドにおいても、事業会社におけるESG投資のメリットはさらに高まっていく

ESG投資が世界の市場で急速に拡大しています。日本においても同様であり、2020年におけるESG投資残高は約310兆円に達しています。また、関連する金融商品も多く開発され、最近では「サステナビリティ・リンク・ローン/ボンド」「トランジションボンド」といった新しい商品も注目されています。

SDGs債において、発行体となる事業会社のメリットとしては、資金の調達手段や投資家層の多様化に加え、ESG/SDGsに対する積極的な取り組みをアピールできるということが挙げられます。一方、投資家となる事業会社にとっても、ESG/SDGsを支援するスタンスを明らかにできるというメリットがあります。

コロナ禍によってESG投資の重要性が再認識され、市場のさらなる拡大が予想されます。今後の注目すべき動きとしては、世界的な脱炭素化とトランジション(低炭素・脱炭素経済社会への移行)、インパクト(環境面・社会面への効果)という新しい評価軸、非財務情報の開示拡充などが挙げられます。サステナビリティ関連の動きはとても速く、次々と新しい変化が生まれています。事業会社として持続可能性を確保していくためにも、このような動きを随時把握し、効果的な経営活動に活かしていくことが重要となります。

講演『コーポレートガバナンスとESG/SDGs』

西山 賢吾
野村資本市場研究所 主任研究員

ESG投資については、総花的に考えるのではなく、中長期的な企業価値の向上にいかに結びつけるかが重要

2021年6月、コーポレートガバナンス・コードが再改訂されました。そのポイントのひとつにサステナビリティへの対応が挙げられます。投資家は、事業会社がESG/SDGs課題と企業価値をどのように結びつけようとしているのかに注目しています。また、日本の企業に対してはガバナンスへの関心も引き続き高い傾向があります。

このような環境において、事業会社として取り組むべきことは、総花的な対応ではなく、ESG/SDGs課題に対して企業としてどう考え、中長期的な企業価値の向上やリスクの把握についてどのように取り組んでいくかを明確に示すことです。ESG/SDGs課題を経営戦略の重要な柱に位置づけるとともに、その取り組みを「見える化」することが重要となります。「資本コスト」を意識した経営方針を明確に説明することも大切です。

一方、事業会社が投資家という立場でSDGs債を購入する場合の留意点としても同様のことが挙げられます。企業価値の向上など経営方針との親和性を考えなければなりません。また、手元資金の有効活用、マルチステークホルダーへの配慮など、そのESG投資の目的や合理性が適切であるかどうかの検証も重要です。このような点について取締役会で議論を重ね、ステークホルダーに的確に説明していくことが必要になります。

パネルディスカッション 『ESG発行体とESG投資における事業法人の取組み』

SDGs債を発行する独立行政法人および事業会社、そしてSDGs債に投資表明を行った事業会社の担当者が登壇し、パネルディスカッションを行いました。発行体と投資家というそれぞれの視点から、事業会社が取り組むESG投資の意義、今後の課題などについて貴重な意見が交わされました。

パネリスト

独立行政法人日本学生支援機構 財務部次長 池田佳弘氏

J. フロント リテイリング株式会社 資金・財務政策部長 浦木浩史氏

株式会社アバールデータ 総務部ゼネラルマネジャー 小木辰夫氏

モデレーター

野村證券 デット・キャピタル・マーケット部 ESG債担当部長 相原和之

ソーシャルボンドへの投資表明をする事業会社が増加

日本学生支援機構
池田氏

日本学生支援機構(JASSO)は、学生の学びを支える重要なインフラを提供するナショナルセンターとして、次代の社会を担う人材の育成に貢献する独立行政法人です。その中でも主力となるのが奨学金事業であり、第二種奨学金を資金使途としたソーシャルボンドを2018年9月から継続的に発行しています。国内債券市場では希少な2年債を四半期ごとに発行し、投資表明の件数も継続して増加しています。

本機構のソーシャルボンドは、当初は安全性の高い保全資産というニーズが多かったようですが、最近ではSDGs債の一環として購入を検討する投資家が増えています。また、投資家を業態別に見ると、これまで主流だった金融機関に加え、最近は事業会社が急速に増加しています。投資家のみなさまからは、「わが国にとって人材育成は重要な社会課題。自社ばかりでなく、広く社会の人材育成に貢献したい」といった声をいただています。

わが国のSDGs債市場は、トランジションボンドなどの新しい債券も開発され、ますます活性化しているように思います。ソーシャルボンドの発行額は、JASSOのような公的セクターによって増加してきましたが、民間による発行はまだ少ない状況です。今後制度面での整備などが進めば、さらに増加していくと考えています。

日本学生支援機構のソーシャルボンドに関する概要

コンセプト(イメージ)

投資表明投資家の業態別内訳

投資表明投資家は、2021年6月22日現在。

日本学生支援機構「日本学生支援機構について」2021年6月、27頁、日本学生支援機構「投資表明投資家一覧」、より野村資本市場研究所作成

サステナビリティボンドとしての注目度の高さを実感

J. フロント リテイリング
浦木氏

J. フロント リテイリングは2007年、(株)大丸と(株)松坂屋ホールディングスが経営統合して設立されました。現在、「大丸松坂屋百貨店」や「パルコ」をはじめ37店舗を展開し、企業戦略・事業戦略と一体化させたサステナビリティ経営を推進しています。このようなサステナブルな社会との共存を目指す取り組みの一環として、2021年5月、当社にとって初となるサステナビリティボンドを発行しました。資金使途としては、店舗の建設をはじめ、低炭素化や女性活躍推進の取り組みなどを予定しています。

コロナ禍の最中の発行ということで心配もありましたが、多くの投資表明をいただくことができました。百貨店業界にとって厳しい環境が続く状況において、想定どおり順調に発行できたことは、サステナビリティボンドとしての効果が大きかったと考えています。

今回初めて発行してみて感じたことは、サステナビリティボンドの条件と事業活動を紐付けることがなかなか難しいということです。このあたりのガイドラインなどがさらに整備されてくると、発行する事業会社も増加し、それらが結果的に利率などにも好影響を及ぼし、SDGs債の市場もさらに活性化していくと思います。当社としては、今後も継続してSDGs債を発行していく予定です。

J. フロント リテイリングによるサステナビリティボンドの概要

充当事業の例

投資表明投資家の業態別内訳

大丸心斎橋店本館・渋谷パルコの建設等、再生可能エネルギー由来電力の購入、LED照明への切り替え、社用車のEV化、神戸・旧居留地の賃借、女性の活躍推進への取り組みに充当予定

投資表明投資家は、2021年5月19日現在

J. フロント リテイリングウェブページ、より野村資本市場研究所作成

ESG投資によって、社内のサステナビリティへの認識が深まる

アバールデータ
小木氏

アバールデータは、主に半導体製造・検査装置や医療機器向けの電子機器の開発・製造・販売を行っています。現在、売上高100億円を目標とした中期経営計画に取り組んでおり、その戦略のひとつとしてサステナビリティの推進を掲げています。しかし、社内におけるサステナビリティの浸透度はけっして高くなく、どのように取り組みを進めるかが課題となっていました。

このような検討を進めるなか、野村證券から提案を受け、日本学生支援機構が発行するソーシャルボンドの投資表明を行うことにしました。SDGs債の購入によって社会課題の解決に間接的に貢献することは、当社の取り組みを推進するきっかけになると考えました。「奨学金」という資金使途が明確であったことも選択した理由でした。また、ソーシャルボンドの購入によって、当社の姿勢を社外にアピールすることも目的のひとつです。学生に向けた採用活動への効果も期待しました。

SDGs債の購入に向けて議論を重ねた結果、経営層におけるサステナビリティへの認識も深まりました。プレスリリースやホームページなどで告知を行い、社外のステークホルダーへのアピールに加えて、社員たちのESGへの関心も高まったように思います。事業会社におけるサステナビリティへの取り組みとして、SDGs債の購入は選択肢のひとつになると感じています。

今後、SDGs債については、発行体・投資家という関係にとどまるのではなく、そのエンゲージメントから新たなものを生み出すようなことができれば、事業会社にとってさらに可能性が広がるのではないかと考えています。

野村グループの目指すサステナブル・ファイナンス

野村グループの目指す
サステナブル・ファイナンス

野村グループは、気候変動対策や社会課題を解決するための資金需要と、投資を通じて社会に貢献しようという投資家との橋渡し役を担っています。「社会課題の解決を通じた持続的成長の実現」という経営ビジョンのもと、持続可能な社会の創造に資する金融サービスの提供を通じて経済成長や豊かな社会の創造に貢献していきます。

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