2025年8月20日から22日に横浜で開催される第9回アフリカ開発会議(TICAD9)に合わせて、わが国で最もアフリカに注力している事業会社のひとつである豊田通商と、アフリカ向け事業に資金を充当するテーマ債「アフリカ・TICADボンド」を発行した国際協力機構(JICA)とで、「アフリカの課題解決と未来の発展への貢献」をテーマとして対談が行われました。

豊田通商株式会社×独立行政法人国際協力機構(JICA)

参加者

豊田通商株式会社

独立行政法人国際協力機構(JICA)

野村證券株式会社

  • アフリカ本部 アフリカ企画部 理事 吉川弘芳氏
  • アフリカ部 審議役兼次長 内田久美子氏
  • 財務部 次長 宮崎清隆氏
  • サステナブル・ビジネス開発部 担当部長 相原和之

豊田通商アフリカ本部の概要

相原:

 

地域を軸とした営業本部というのは、他の日本企業にはない組織形態だと思いますが、まずはアフリカ本部の概要をご説明ください。

 

吉川氏:

 

当社がアフリカで事業を開始したのは1922年で、最初はウガンダで綿花の取扱いを始めました。その後、アフリカ事業を拡大していく中で、2012年にフランス最大のアフリカ専門商社CFAO(セーファーオー)社に一部出資し、2016年には完全子会社化しました。

豊田通商 吉川氏
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豊田通商 吉川氏

2017年には、商材を軸とした従来型の商品本部に加えて、アフリカを軸にしたビジネス成果をより加速させるため、アフリカ本部を設立しました。当社としても地域軸での本部の設立は初めてです。
 

アフリカ本部は、『WITH AFRICA FOR AFRICA』をビジョンに掲げ、アフリカ全土54カ国において、総勢2万3千人の従業員が多彩なビジネスを展開しています。当社の連結従業員数が約7万人なので、約3分の1がアフリカに従事していることになります。

豊田通商によるアフリカでの取組み、アフリカ市場の魅力

相原:

 

具体的にはアフリカでどのような取組みをされているのでしょうか。また、どのような点がアフリカ市場の魅力とお考えですか。

吉川氏:

当社は、「モビリティ」、「グリーンインフラ」、「ヘルスケア」、「コンシューマー」の4つの分野を軸に事業を展開しています。

「モビリティ」に関しては、2019年にトヨタ自動車様から営業業務の全面移管を受け、アフリカ全土向けのトヨタ車の販売を当社が担っています。またトヨタのみならず、日系、欧州など、各国の50社以上のブランドをマルチに取り扱っています。一部の国においては、自動車生産の支援事業や現地組み立て生産に取り組むなど、モビリティのバリューチェーン全体を構築することで、アフリカ各国の安心安全なモビリティ社会の構築に貢献しています。

「グリーンインフラ」に関しては、電力、港湾、水供給事業を中心にインフラ開発を推進しています。電力は、特に当社が強みを持つ再生可能エネルギー分野において、風力、太陽光、地熱など、各国のポテンシャルを生かしたプロジェクトの開発を行っています。また物流の活性化を促進するために、港湾の修復・再建や拡張などのプロジェクト開発に力をいれています。

「ヘルスケア」に関しては、信頼性のある医薬品をお届けしています。医薬品の卸売を中心に、一部の国においては医薬品の現地生産、また、東部アフリカにおいては薬局チェーンに出資して、小売事業にも事業の幅を拡大させています。また、国連向けの医薬品キット供給や、ワクチン保冷輸送車を普及させることにより、ラストワンマイルデリバリーを改善することで、誰一人取り残さない健康な社会の実現を目指しています。

「コンシューマー」に関しては、西アフリカでショッピングモールの経営やスーパーマーケット事業を展開しています。経済発展に伴う将来的な中間層の拡大を見据えて、市場の成熟を待つのではなく、モダンリテールの市場形成に注力しています。

アフリカ全土をカバーするネットワーク(出所)豊田通商ホームページ
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アフリカ全土をカバーするネットワーク
(出所)豊田通商ホームページ
豊田通商4つの分野(出所)豊田通商ホームページ
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(出所)豊田通商ホームページ

アフリカの魅力は、言うまでもなく、急激な人口増加に伴う経済成長への期待です。アフリカの人口は現在約15億人ですが、2050年には約25億人と世界人口の4分の1を占めるといわれています。増加する中間層の中でも、特に若い世代が多いため、消費が旺盛であり、これがアフリカの市場成長を後押しすると見込んでいます。人口増加によるオーガニックな成長の取り込みと積極的な投資で、さらなる事業成長を図りたいと考えています。

アフリカ基本情報(出所)豊田通商ホームページ
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(出所)豊田通商ホームページ
2020~2100年までの世界人口推移(出所)豊田通商ホームページ
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(出所)豊田通商ホームページ

国際的な取組みへの積極的な参加、TICADにおけるこれまでの成果

相原:

TICADをはじめとする国際的な取組みにも積極的に参加されていると伺っていますが、これまでの成果などをお聞かせください。

チュニジア経済計画省との包括MOU調印式(出所)豊田通商ホームページ
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チュニジア経済計画省との包括MOU調印式
(出所)豊田通商ホームページ

吉川氏:

3年に一度、アフリカ各国の首脳級が一堂に会するTICADは、当社にとってもビジネス推進のマイルストーンであり、非常に重要な機会と捉えています。各国首脳との個別面談やMOUの締結によって、アフリカビジネスの加速を図っています。前回、2022年にチュニジアで行われたTICAD8では、政府、民間企業、国連団体との間で合計25件のMOUを締結し、10カ国の首脳と個別面談を実施させていただきました。

2025年夏に開催されるTICAD9においても、前回を超える成果を目指し、『for the future children of Africa』をキーメッセージとして、「グリーンエコノミー」、「グローバルヘルス」、「人材育成」の3つを重点テーマに掲げ、持続可能な経済発展を目指して全社一丸となって取り組んでいきます。

JICAの概要

相原:

続いて、JICA様の概要と、アフリカにおける取組みについてお聞かせください。

宮崎氏:

JICAは、日本の開発援助(ODA)を一元的に実施している機関です。開発途上地域の開発、復興、経済の安定に寄与することを通じて国際協力の推進や日本・国際経済社会の健全的な発展に貢献するとことを目的としています。

JICAは協力を行う上で様々なメニューを持っており、主なものは3つあります。

1つ目は、日本からの専門家派遣や、日本での研修などを通じて開発途上国の人材育成や制度づくりを支援する「技術協力」です。2つ目は、緩やかな融資条件で途上国に貸付などを行い、インフラ整備などを支援する「有償資金協力」です。3つ目は、所得の低い開発途上国を対象に、返済義務を課さない形で資金を贈与して、学校や病院、道路といった基礎インフラの整備などを行う「無償資金協力」です。

JICA 宮崎氏
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JICA 宮崎氏

また、JICA海外協力隊などのボランティア派遣、自然災害などが起きた際の国際緊急援助隊の派遣もJICAが実施しています。日本のNGO、地方自治体、大学などが提案する開発協力事業のお手伝いや、日本の中小企業による海外でのビジネス展開の支援も行っています。
 

JICAは現在、世界各国に97カ所の拠点を持っており、約140の国と地域で事業を展開しています。世界各地に拠点を有し、現地政府との強いネットワークや信頼関係を持っているのがJICAの強みの一つです。加えて、開発途上国と日本の地域を結ぶ結節点として、日本国内においても15カ所の拠点を有しています。今回トピックとなっているアフリカでも、JICAは31カ国に拠点を有しており、54カ国で事業を展開しています。

JICAの主要3業務(出所)JICA IR資料より
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(出所)JICA IR資料より

アフリカにおけるJICAの取組み

内田氏:

吉川様からご説明いただいたアフリカ本部の4つの柱は、少しずつ言葉は違うものの、JICAの方向性に非常に合っていると感じました。

アフリカの課題としては、現在は貧困人口が非常に多いことが挙げられます。世界の貧困人口の3分の2がアフリカに集中していると言われ、難民の30%近くがサブサハラ・アフリカ出身という現状もあります。また、これまでの深刻な干ばつの発生に加え、最近は気候変動の影響を受け、ほぼ毎年のようにアフリカ各地で洪水が起きて人が亡くなっています。また、コメを中心とした農作物が被害を受けています。アフリカの自然災害を見ると気候変動の影響を非常に大きく受けていることを感じます。

JICA 内田氏
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JICA 内田氏

アフリカはこれからどんどん人口が増えて、2050年には世界全体の人口の4分の1がアフリカと予想されています。インドと中国に続いてナイジェリアが第3位の人口になると言われており、非常に大きな人口を抱える大陸になります。
 

多くの諸国が独立した1960年以降、JICAは「人間の安全保障」を軸にしながら、アフリカに対する支援を行っています。2023年までに約3.8兆円の有償資金協力、約1.9兆円の無償資金協力、約1.3兆円の技術協力を実施しました。


TICADの取組みは、約30年前の1993年に始まりました。現在は中国、ロシア、インド、インドネシアなどの様々な国がアフリカの首脳級との会談・面談を実施し、アフリカとの協力体制を構築しようとしていますが、こういった包括的な取組みは日本政府が始めたものです。また、食料が気候変動の影響を大きく受けていることから、「JICAアフリカ食料安全イニシアティブ」を立ち上げ、2030年を目標年度として、コメ生産量の倍増や小規模農家の所得向上というような取組みを行っているところです。

(出所)JICA IR資料より
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(出所)JICA IR資料より

アフリカ・TICADボンドについて

相原:

 

JICA様はテーマ債の発行に取組み、今年度は「アフリカ・TICADボンド」を発行されます。「アフリカ・TICADボンド」発行に至った経緯・目的などについてお聞かせください。

 

宮崎氏:

 

JICAでは、SDGs達成に向けた民間資金の動員、国内のESG債市場の発展促進、そしてJICA事業を幅広く知っていただくことを目的として、2016年度に国内初となるソーシャルボンドを発行しました。それ以降、国内で発行する全ての債券をソーシャルボンドとして発行してきましたが、JICA事業は社会課題解決への貢献に加え、環境面の課題解決にも資する側面もあり、そうしたJICA事業の多様な側面をより分かりやすく発信するという目的で、2023年の4月に債券フレームワークを刷新し、それ以降はサステナビリティボンドを発行しています。

JICA債の調達資金は全て有償資金協力事業に充当し、その全てが開発途上国の社会課題や環境問題の解決に貢献する形になっています。JICAでは2019年以降、JICAの重点的な取組みに関する対外発信、パートナーシップの拡大を目的として、特定のテーマや特定の地域に資金使途を限定する「テーマ債」の発行に取り組んでいます。これまで年に1回程度発行しており、2025年度で7回目のテーマ債発行となります。

(出所)JICA IR資料より
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(出所)JICA IR資料より

2025年8月に横浜で開催されるTICAD9では、民間投資の促進が主要テーマの一つとなっていますが、依然としてアフリカ向けの民間投資というのは、他の地域と比べるとまだ限定的です。「アフリカ・TICADボンド」の発行を通じて、アフリカに対する日本やJICAの協力だけでなく、アフリカについてもより知ってもらうことで、アフリカ向けの民間投資を促進できないかと考え、今回「アフリカ・TICADボンド」を発行することにしました。TICADをテーマにした債券発行は、2019年度について2回目となります。

アフリカビジネスにおける豊田通商とJICAとの連携事例、アフリカでのビジネスを通じて目指す姿

相原:

 

次に、豊田通商様とJICA様がアフリカで連携・協働されている事例についてお話を伺います。アフリカの発展に貢献する上では、インフラ整備の支援が欠かせないと思いますが、どのような支援をされているのでしょうか。

アフリカにおけるインフラ整備

吉川氏:

 

アフリカの発展にとってインフラ整備は欠かせない分野と考えています。ここでは、過去に当社が取り組んだ事例を2つご紹介します。いずれもJICA様の有償資金協力で実施した事業です。
 

1つ目は、ケニアのモンバサ港開発事業です。東アフリカの最大の商業港であるケニアのモンバサ港において、合計22基の港湾クレーンを供給させていただきました。このプロジェクトを通じて、ケニアを含む東アフリカ地域の物流活性化や経済発展に寄与するとともに、日本の質の高いインフラ輸出に貢献したいと考えています。

モンバサ港
(出所)JICAホームページ
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モンバサ港
(出所)JICAホームページ
モンバサ港の港湾クレーン
(出所)豊田通商ホームページ
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モンバサ港の港湾クレーン
(出所)豊田通商ホームページ

2つ目は、ケニアのオルカリアの地熱発電プロジェクトです。ケニアの地熱ポテンシャルはアフリカ最大と言われている中で、その一つの地域であるオルカリアでは1970年代から地熱開発が進められています。当社はそのうちの2つの発電所において、ケニアの発電公社と契約を結んで開発に携わってきました。こちらは2015年に完工しています。

オルカリア地熱発電所(出所)豊田通商ホームページ
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オルカリア地熱発電所
(出所)豊田通商ホームページ

アフリカでは今後も積極的なインフラ開発が見込まれているので、当社としてもJICA様と協力して、機会を逃さず積極的に取り組んでいきたいと考えています。

内田氏:

 

アフリカは内陸国や経済規模の小さい国が多いため、近隣諸国間での経済統合を目的として、地域の経済共同体を形成して、共通市場の形成や越境貿易促進に取り組んでいます。その要となるのが、先ほどお話があったモンバサ港です。先日のケニア出張時にモンバサ港を訪問し、たくさん並んだガントリークレーンによってコンテナが荷揚げされている様子を拝見しました。ケニアの港湾公社の総裁からはこれまでの日本の協力に対して感謝の言葉があり、また、モンバサ港のキャパシティが超えつつあるとのお話もありました。モンバサ港が東アフリカのみならず、さらにその先の内陸国への玄関口、ゲートウェイとしての機能を果たしている様子を目の当たりにし、JICAの支援がうまく使われていて、非常に有効だったと感じられ、嬉しく思いました。
 

アフリカ域内の地域の連結性を強化するためには、貿易の円滑化が必要です。そのためにJICAは、ハード面であるインフラ整備、ソフト面である人材育成等の技術協力を両輪で実施しています。例えば、税関や出入国などの国境手続きを円滑化するために、ワンストップボーダーポスト(OSBP)の支援をしています。

アフリカのカズングラOSBPの入口(ザンビア・ボツワナ国境)
(出所)JICAホームページ
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アフリカのカズングラOSBPの入口(ザンビア・ボツワナ国境)
(出所)JICAホームページ

OSBPを導入すると、それまでそれぞれの国でしなければならなかった通関や出入国の手続きを1カ所でできるようになるため、手続きが短縮できます。そうすると物流もスムーズになり、移動時間も短くなって効率性が上がるため評価が高いのですが、モンバサ港ではそれをさらに進めて、東アフリカ共同体(EAC)での取組みとして、ワンストップポートという、EAC国内であればモンバサ港で通関をすればそれ以外の国では手続きが不要、といった先進的な取組みを行っています。ケニアだけではなく、タンザニアもウガンダもブルンジ等も、全ての国の事務所がモンバサにあり、そこで手続きが可能となっています。

現在、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が進められていますが、こういったEACの取組みは、それ以外のアフリカ諸国にとっても良い取組みになるのではないかと感じています。JICAとしても、AfCFTAの事務局と協力覚書を結ぶなど、今後も引き続きアフリカの円滑な貿易促進、さらには雇用創出やバリューチェーンの構築に貢献できればと考えています。
 

電力も非常に重要なインフラだと考えています。ケニアのオルカリア地熱発電のお話がありましたが、ケニアは90%以上が再生可能エネルギーで発電しているという非常に先進的な国です。ただ、アフリカ全体で見ると、実はまだ電化率が5割程度ということで、かなりの地域がまだ電力がない暮らしをしていることになります。

この未電化率をさらに下げるべく、昨年から世界銀行とアフリカ開発銀行が共同イニシアティブとして「ミッション300」を立ち上げました。これは2030年までに3億人の人たちに電力アクセスを届けるという取組みです。JICAも有償資金協力のみならず、技術協力や無償資金協力でも支援できると考え、全スキームを挙げてアフリカの電化事業に対して取り組んでいきたいと考えています。豊田通商様には、ケニアのモンバサ港やオルカリア地熱発電に加え、セネガル初の海水淡水化事業も受注いただき、アフリカで積極的に関与してくださっているという点で本当に感謝しています。

海水淡水化プラントの完成予想イメージ
(出所)豊田通商ホームページ
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海水淡水化プラントの完成予想イメージ
(出所)豊田通商ホームページ

CFAO社による母子健康手帳の寄贈

相原:

 

インフラ整備など、ハード面の取組みだけではなく、ソフト面でも連携されていると伺っています。母子手帳をアフリカで導入・普及させる取組みについてお聞かせください。

 

内田氏:

 

これまでも例えばケニアやセネガルで、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、保健に関する政策借款、ルワンダでの栄養に関する政策借款など、政策の策定や実施促進のための財政支援を行っています。
 

2024年4月には、WHOと世界銀行、日本の財務省、厚生労働省が一緒になって「UHCナレッジハブ」を日本に設置すると発表され、2025年内にローンチされる予定になっています。途上国のUHC達成に向けた取組みを支援するための枠組みなのですが、主に保健財政などにかかる知見の収集、途上国の財務保健当局の人材育成などを目的としています。日本は国民皆保険の制度が整っていますが、世界では制度が整っている国はなかなかないので、国民皆保険制度の知見の共有や、人材育成も考えているところです。これまでも例えばケニアやセネガルで、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、保健に関する政策借款、ルワンダでの栄養に関する政策借款など、政策の策定や実施促進のための財政支援を行っています。
 

2024年4月には、WHOと世界銀行、日本の財務省、厚生労働省が一緒になって「UHCナレッジハブ」を日本に設置すると発表され、2025年内にローンチされる予定になっています。途上国のUHC達成に向けた取組みを支援するための枠組みなのですが、主に保健財政などにかかる知見の収集、途上国の財務保健当局の人材育成などを目的としています。日本は国民皆保険の制度が整っていますが、世界では制度が整っている国はなかなかないので、国民皆保険制度の知見の共有や、人材育成も考えているところです。

それ以外にも、トヨタが取り入れたことで広く普及した「カイゼン」という取組みがあり、それを「5S-KAIZEN-TQM手法」として活用する、病院運営の改善・強化を目的とした技術協力プロジェクトを行っています。これはアフリカ15カ国で行っているのですが、一例として、州病院でのカルテなど、資料の整理整頓という考え方が普及すると、円滑に医療行為が出来るようになるので患者さんの待ち時間が短くなる。そうすると、もっと患者さんが来るようになって収入が増えるといった効果が出ています。今後はタンザニアの州病院で行っている取組みをさらに広げていきたいと考えています。

マロンデラ州病院の業務改善チームが、自身で実践した5S活動を説明している様子
(出所)JICAホームページ
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マロンデラ州病院の業務改善チームが、
自身で実践した5S活動を説明している様子
(出所)JICAホームページ

保健に関連したところでは、母親や子どもが必要なケアを継続的にしっかりと受けられるという意味で、母子手帳が非常に重要だと考えています。豊田通商様にご協力いただいているアンゴラの母子手帳は、体重や身長の推移や予防接種の記録など、日本の母子手帳を参考にしながら、アンゴラの生活習慣や文化も踏まえた上で作成されていると聞いています。アンゴラでは、2017年から2022年に実施されたJICAの「母子健康手帳を通じた母子保健サービス向上プロジェクト」で母子手帳を導入し、2025年7月までにアンゴラの全21州中20州で利用開始しています。豊田通商様にはグループ会社であるCFAO Mobility Angola社様からアンゴラ保健省に対して 2019年、2022年、2024年に母子手帳の寄贈をいただいています。これまで80万部以上寄贈されており、今年2025年もさらに寄贈いただけると伺っているので、改めてお礼を申し上げたいと思います 。

アンゴラの母子手帳(出所)JICAホームページ
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アンゴラの母子手帳
(出所)JICAホームページ

吉川氏:

 

当社としては、JICA様の母子健康手帳のプログラムには深く賛同しています。アンゴラではこれまでに81万部を寄贈させていただいていますが、今年2025年は、通常の母子手帳に加えて、点字版を加えた形で、約3万5千部を寄贈させていただく予定です。また、この活動をより多くの地域で展開したいということで、JICA様とも相談し、新たにモザンビークでも第1回目の寄贈を予定しています。今後も、他の国々での活動可能性に向けて、JICA様と継続的に連携をしたいと考えています。

セネガル・日本職員訓練センターでのトレーニング

相原:

 

その他にはどのような連携・協働事例があるのでしょうか。

 

内田氏:

 

産業分野の人材育成の取組みとして、1984年に日本の支援によって開設された「セネガル・日本職業訓練センター」があります。セネガルのみならず、周辺国からも生徒さんを受け入れ、これまで7,000名以上の卒業生を輩出しているところです。セネガルで有力な通信会社の技術者の約2割がこのセンターの出身と聞いており、西アフリカ諸国の産業分野の人材育成に大きく貢献していると自負しています。JICAは当初から施設機材のインフラ整備支援だけではなく、累次の技術協力によって研修の質の向上やセンターの運営改善に貢献しています。

セネガル・日本職業訓練センター
(出所)JICAホームページ
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セネガル・日本職業訓練センター
(出所)JICAホームページ
セネガル・日本職業センターでの実習の様子
(出所)JICAホームページ
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セネガル・日本職業センターでの実習の様子
(出所)JICAホームページ

また、似たような取組みとして、例えば2025年6月には、タンザニアの職業訓練校の教員と学生が山形県長井市の県立長井工業高校を訪問し、実習に参加するなど、人材交流を開始しています。

 

吉川氏:

 

「セネガル・日本職業訓練センター」については、当社はこれまでもCFAO社を通じて技能トレーニングを提供させていただいています。今回、新たにJICA様と協働で、他の日系進出企業にもお声かけさせていただき、それぞれの分野の知識やリソースを生かしたトレーニングプログラムを新たに提供していくことを計画しています。

 

また、人材育成に関しては、当社は2014年に「トヨタケニアアカデミー」を設立し、自動車分野での技能トレーニングのみならず、JICA様と協働で農業機械や建設機械などの技能トレーニングも一般開講しています。当社の中でケニアアカデミーは、東アフリカ地域のトレーニング拠点になっています。熟練トレーナーが常駐しており、彼らを通じてトレーニングを行っています。

 

さらに、2019年のTICAD7で、アンゴラ政府とMOUを締結し、アンゴラ職能訓練センターの自動車整備指導員向けに、 JICA様と協働でトレーニングプログラムを提供させていただきました。こういった職能訓練の機会提供を通じて、アフリカの方々の自立支援と、アフリカの持続可能な社会づくりに貢献していきたいと考えています。

トヨタケニアアカデミー(出所)豊田通商ホームページ
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トヨタケニアアカデミー
(出所)豊田通商ホームページ

内田氏:

 

トヨタアカデミーは、ケニアにおいては過去ボランティアも派遣されるなど、まさしく協働の事例だと考えられます。アンゴラのアカデミーは、CFAO社からの委託を受けて実施したもので、JICAにおける民間法人からの受託事業としては南米のチリに次いで2例目、アフリカにおいては初の事例となっています。特に自動車整備工は日本でも人材不足が指摘されており、国土交通省も外国人材を活用する方針を打ち出しています。 そういう意味で、日本の時流にもあった取組みだと考えています。

最後に

相原:

野村證券 相原
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野村證券 相原

本日は豊田通商様とJICA様からお話を伺い、 アフリカの様々な課題や将来性、さらに豊田通商様・JICA様のハード面、ソフト面での事業・ご支援について聞かせていただきました。2025年12月に100周年を迎える野村グループは、 「金融資本市場の力で、世界と共に挑戦し、豊かな社会を実現する」というパーパスを掲げています。 ESG債の市場規模が拡大する中で、発行体様と投資家様をお繋ぎする役割を今後も続け、SDGs達成に向けた取組みの更なる拡大を目指していきたいと考えています。最後に今回の感想をお聞かせください。

吉川氏:

冒頭で、人口の増大がアフリカの魅力だと申し上げましたが、一方で、経済的な発展が伴わない場合、グローバルなリスクにもなりかねないと考えています。今回の対談を通じて、アフリカの経済的な発展を下支えするインフラ整備と、それを活用する人材開発の重要性を改めて認識させていただきました。今後もJICA様と連携しながら、アフリカの社会課題解決と持続可能な経済発展に貢献し、未来のアフリカの子供達の笑顔があふれる社会の実現に向けて、さらに尽力していきたいです。

(出所)豊田通商ホームページ
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(出所)豊田通商ホームページ

内田氏:

 

豊田通商様のアフリカ事業の4つの柱は、JICAのアフリカに対する支援の方向性と似ていると感じます。JICAのアフリカ事業の特徴として、「人間重視」、「アフリカオーナーシップと共創」、「日本の知見の活用」というものがありますが、豊田通商様の事業は、人間重視という部分も含めて非常に合っていると思いました。イラク駐在時に豊田通商様の積極的な中東への参画を知り、その後アフリカ部に異動してからは、アフリカでもこんなに積極的なご支援をいただいているのかと、大変驚きました。アフリカはまだまだ市場が未開拓な部分があり、アジアのように必ずしも知見が生かせないという中ではありますが、民間投資が不足しているというボトルネックを官民一緒になりながら対応、またJICAもその一助としてインフラの整備で貢献できればと思います。引き続きアフリカをご支援いただけると非常にありがたいと感じています。

(出所)アフリカ・TICADボンド リーフレット
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(出所)アフリカ・TICADボンド リーフレット

宮崎氏:

 

アフリカは本当にポテンシャルがたくさんあると思うのですが、逆に言うと、このポテンシャルが発現しなかった場合には、大きなグローバルリスクになり得る。感染症であったり、難民であったり、そういった様々な脆弱性が高まるリスクもあると思います。JICAとしては、アフリカのポテンシャルが活かされて、グローバルなリスクではなく、むしろ世界を引っ張っていくような地域になるように、技術協力であったり、無償資金協力であったり、有償資金協力などを通じて支援を行っています。今回発行する「アフリカ・TICADボンド」は、まさにアフリカを支えるためのインフラ事業等に資金を充てるものになっています。

まだまだ日本からアフリカへの投資は十分でないと思いますし、アフリカへの投資に参加するのは遠いと感じている方もたくさんいらっしゃるかもしれませんが、JICAが発行する「アフリカ・TICADボンド」は、様々な投資家の皆様が身近に参加できるツールだと思います。「アフリカ・TICADボンド」の発行を通じて、将来のポテンシャルを持っているアフリカが、そのポテンシャルを発揮できるようにするお手伝いをし、それを知っていただく良い機会になればと思っています。

写真左から JICA 宮崎氏、内田氏、豊田通商 吉川様 内田氏、野村證券 相原
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左から JICA 宮崎氏、内田氏、豊田通商 吉川氏、野村證券 相原
SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS