未来を変える農と食の先進ビジネス

2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)。本格的に世の中に浸透させ、目標を達成するためには、ビジネスとの融合が重要とされ、さまざまな領域で持続可能な未来を目指した具体的な動きが加速しています。

なかでも農業は変化の可能性が大きく広がる分野です。近年ではAgri-Tech(アグリテック)、スマート農業、Agriculture 4.0などのキーワードが業界を賑わせ、農と食のデジタルトランスフォーメーションやバイオテクノロジーの活用を通じて、新しい事業機会の創出に対する期待が高まってきています。

こうした潮流に先駆け、2010年9月、野村グループは農業を軸としたコンサルティングや実行支援の提供を通じて地域活性化を図り、日本経済の持続的発展に貢献することを目指して「野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社(NAPA)」を設立しました。

SDGs目標達成と「農と食(フード&アグリ)」

そもそも農と食(フード&アグリ)は、身近な社会課題と密接にリンクした分野といえます。SDGsとどのような関わりがあるのか、具体的にみていきましょう。

まず、農業には「食料を供給する」という重要な役割があります。SDGs目標2の「飢餓をゼロに」の実現には、農業の貢献が必須です。世界の人口は2019年の77億人から2030年には85億人、そして2050年には97億人になると予想されています。その一方で、農地の宅地化や異常気象、労働力不足などの影響により食料の供給が需要に追いつかないという世界共通の課題が表面化しています。世界中の人々が一年中安全で栄養豊富な食料を十分得られるようになるためには、農業の生産や流通のプラットフォーム革新が必要です。

世界の食料需要の見通し

世界の食料需要の見通し

※油脂を多く含み、油糧原料となる種子類の総称
出所:農林水産省「2050年における世界の食料需要見通しの公表について(世界の超長期食料需給予測システムによる予測結果)」(2019)

次に、安定した食料の供給と並行して、持続可能な農と食のエコシステム構築への新たな動きがあります。地球温暖化の原因とされる温室効果ガス排出、というと発電や工場、自動車など工業分野をイメージしがちですが、意外なことに食生活を支える農・畜産業などを通した排出も少なくありません。昨今では動物福祉(動物愛護)などのエシカルな観点や、現在の生産システムによる環境負荷を鑑み、植物性由来の代替肉を選択する若い消費者も目立ってきました。これは、SDGs目標12「つくる責任つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標15「陸の豊かさを守ろう」に関連しますし、第一次産業として水産も含めれば、目標14「海の豊かさを守ろう」も入ってきます。

農業活動による温室効果ガス排出とその内訳

農業活動による温室効果ガス排出とその内訳

国際農林業協働協会(JAICAF)作成「世界食料農業白書2016 気候変動と農業、食料安全保障」に基づいて作成
※国際連合食糧農業機関(FAO)発行「The State of Food and Agriculture 2016」を原本とした日本語翻訳版

そして、農業には労働力の確保が欠かせません。農業を含めた第一次産業の生産者は、担い手の高齢化と若者の一次産業離れといった課題に直面しており、その解決策として最先端技術の導入により活路を見出そうとする動きが目立ってきました。これらは、目標8「働きがいも経済成長も」や目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に関連が深いといえます。

テクノロジーによる3つの変化

こうした持続可能な農と食(フード&アグリ)が成長産業の一つとして注目が高まっている背景には、情報とバイオ、双方でのテクノロジー進化があります。最先端ICT技術やアグリバイオと呼ばれるテクノロジーによって、食の分野における生産から流通までの効率化が一気に進みました。技術の革新がもたらすフード&アグリの最先端をみていきましょう。

(1)生産方法は自動化が進む

近年では生産プラットフォームの自動化が進み、多くの人手を必要としない農業や漁業が現れ始めています。例えば、スペイン アルメリアの3万ヘクタール以上の広大な土地でのハウス団地は最先端のICT技術が支えています。また、ノルウェーでは、100万尾を超える養殖サーモンの生け簀にモニタリング用のカメラを設置して給餌を自動化、育ったサーモンはロボットが捕獲して身をさばき、切り身となって出荷されていきます。自動化によって省力化と大規模経営が両立する、まさに次世代の生産プラットフォームです。

(2)代替肉や昆虫食のスタートアップ企業が台頭

水や土地といった資源の大量使用や温室効果ガスの排出など、従来の農・畜産業による環境負荷を軽減し、地球にやさしい新たな食料として代替肉や昆虫食の開発が進んでいます。味や食感が本物の肉にとても近い植物性由来の代替肉を製造する企業や、食用コオロギの生産から収穫までの自動生産システムを開発した企業など、人間の三大栄養素のひとつであるタンパク質をより安く、効率的に開発、製造することを目指すスタートアップ企業が増えています。さらに、細胞農業ともいわれる細胞を培養した食材の開発も世界中で進められています。

(3)SNSを活用したD2Cやクラウドファンディング

近年では中間流通を介さず、生産者から消費者へ直接販売するD2C(Direct to Consumer)での流通が増加しています。主にSNSやワークショップで消費者とコミュニティを形成しながら販売され、消費側には生産者の顔が見える安心感、販売側には商品のサステナブルな付加価値などを訴求できるメリットがあります。これからの消費の中心となるミレニアル世代(20代後半から30代)は自らの選択が社会課題解決につながるとの意識が高いと言われる中、時代が求める変化が流通・マーケティングでも目立ってきました。また、フード&アグリ分野に関連するクラウドファンディングも広まりを見せています。

未来を変える食と農を目指した野村グループの取り組み

NAPA ロゴ

2010年の設立以来、野村アグリプランニング&アドバイザリー(NAPA)では市場動向調査や実証農場で蓄積した知見やノウハウを活かし、農と食の供給とテクノロジー活用に注目が集まる最先端で、アグリ事業者向けにコンサルティングや実行支援を行っています。また、農業への新規参入を検討する企業へのビジネスモデル提案のほか、農業法人やスタートアップ企業への投資を検討する企業へのアドバイザリー提供など、フード&アグリを軸とした幅広いニーズに応えています。

2020年2月には、「野村グローバルフード&アグリフォーラム2020」を主催しました。大手事業会社や金融機関、大学など18社の協賛のもと、フード&アグリの最先端で活躍する海外事業者等による講演やパネルディスカッション、ネットワーキングを中心とした2日間のプログラムで、400名を超える参加者が集う盛況なイベントとなりました。世界では、生産においては最新テクノロジーを積極的に活用しながら大規模化・効率化し、販売においてはブランディングや流通改革を通じてスケール化に成功したケースが多く、こうした好事例を紹介し、ネットワーキングの場を提供することで、先進アグリビジネスに挑戦する事業者・企業のサポートにつなげています。

また、フォーラムと同時に開催されたスタートアップ・ピッチには約20社のベンチャーや事業者が参加し、フード&アグリ分野に関わる新しいビジネスモデル、技術、ソリューションについてプレゼンテーションを行いました。昆虫食や培養肉、陸上養殖などの企業が人気を集め、持続可能な食の供給とSDGs目標達成への関心の高さを再認識する機会となりました。

さらに、2020年4月には国内外の最先端のフード&アグリテックを紹介する書籍「2030年のフード&アグリテック-農と食の未来を変える世界の先進ビジネス70-」を出版しましたが、大きな反響を頂いています。

野村グローバルフード&アグリフォーラム2020

未来を変える食と農の分野に大きな可能性を見出し、NAPAの事業を通じた社会課題解決を目指した野村グループならではの取り組みです。

参考文献
野村アグリプランニング&アドバイザリー編、佐藤光泰・石井佑基著『2030年のフード&アグリテック』(2020)
農林水産省「2050年における世界の食料需給見通しの公表について(世界の超長期食料需給予測システムによる予測結果)」(2019)
国際農林業協働協会(JAICAF)作成「世界食料農業白書2016 気候変動と農業、食料安全保障」
※国際連合食糧農業機関(FAO)発行「The State of Food and Agriculture 2016」を原本とした日本語翻訳版

SDGs17の目標

  • 2 飢餓をゼロに
  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 14 海の豊かさを守ろう
  • 15 陸の豊かさも守ろう
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