ブルーエコノミー(1)「ブルーエコノミー」の定義

21世紀に入った頃から、海洋資源の持続的な利用を通じて海洋環境を保全しながら経済発展を目指す「ブルーエコノミー1」という考え方が注目を集めています。日本は、領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた面積(海外領土を除く)が世界第6位の約447万平方キロメートルを有する海洋国家。日本経済、社会全体が持続的発展を遂げるに当たってブルーエコノミーの発展がカギを握る可能性があります。

この「ブルーエコノミー」とは、国家・地域ごとの戦略に組み込まれていることもあるため、国際的に統一された定義や事業領域は存在しないとみられています。今回は歴史的経緯も踏まえ、国際的に比較的認知されているとみられるものを中心に概説します。

ブルーエコノミーのベースとなる海洋を経済活動の基盤として捉える考え方は、国際連合(国連)等の国際的な会議体で20世紀終盤頃から議論されてきました。この考え方を「ブルーエコノミー」という言葉で表現し始めたのは、2012年6月に開催された国連持続可能な開発会議リオ+20と言われていますが、当時は定義の統一にまで至りませんでした2

その後、国連環境計画(UNEP)が2014年1月に公表した「ブルーエコノミーの概念書」では、海洋資源に頼る世界において、低炭素、資源効率、社会的包摂の原則に基づき、「環境リスクや生態系の劣化を顕著に減らすことで人々の福祉と社会的均等を改善するもの」と定義付けられました3。経済協力開発機構(OECD)は2016年4月、オーシャンエコノミーについて、海洋関連産業による経済活動と海洋生態系が提供する資産・製品、サービスを合わせたものと定義付けています4。世界銀行は2017年6月、ブルーエコノミーを「経済成長、生活向上、雇用、海洋生態系の健全性のために海洋資源をサステナブルに利用すること」と定義しました5

一方、世界自然保護基金(WWF)が2015年5月に公表した「持続可能なブルーエコノミー原則」では、持続可能なブルーエコノミーについて、(1)食料安全保障、貧困撲滅、生計、所得、雇用、健康、安全、公平性、政治的安定に貢献することにより、現在及び将来の世代に社会的及び経済的利益をもたらす、(2)海洋生態系の多様性、生産性、回復力、中核的機能、及びその繁栄が依存する自然資本である本質的価値を回復、保護及び維持する、(3)クリーンな技術、再生可能エネルギー、循環的な物質の流れに基づき、長期的に経済的・社会的安定を確保する、といった点を満たす海洋を基盤とした経済と説明しています6

ブルーエコノミーの概念の発展経緯

1992年6月 リオ地球サミット(国連環境開発会議)で採択されたアジェンダ21の第17章第1項に、「海洋、海及び沿岸域を含む海洋環境は、生命を支える地球規模での制度及び持続可能な開発のための機会を提供する必要不可欠な要素」と明記
2002年9月 ヨハネスブルグ・サミット(持続可能な開発世界サミット)で採択されたヨハネスブルグ・サミット実施計画の第30項に、「海洋、海、島しょ、沿岸域は地球規模での食料安全保障やすべての国家経済の経済的繁栄や福利の維持のために不可欠な、地球の生態系の一体で不可欠な要素を構成する」と明記
2011年 OECD国際未来プログラム(現・科学技術イノベーション局)に端を発する「海洋経済の未来プロジェクト」にて、セクターごとのワークショップを開催し、洋上風力、再生可能エネルギー深海低油田・ガス田開発、沖合養殖、深海底鉱物資源開発、海上安全、監視、海洋観光、海洋バイオテクノロジー、海洋空間計画や海洋産業のシナリオ作成を検討
2012年6月 国連持続可能な開発会議リオ+20の準備会合にてさまざまな国、機関が自然資産や生態系サービスに結び付けた海洋の価値、島しょにおける小規模漁業や経済等を議論。ただし、統一的なブルーエコノミーの定義に至らず
2014年1月 国連環境計画(UNEP)が「ブルーエコノミーの概念書」を公表。ブルーエコノミーを、海洋資源に頼る世界において、低炭素、資源効率、社会的包摂の原則に基づき、「環境リスクや生態系の劣化を顕著に減らすことで人々の福祉と社会的均等を改善するもの」と定義
2015年5月 WWF、「持続可能なブルーエコノミー原則」を公表。同原則において、持続可能なブルーエコノミーについて、海洋を基盤とした経済と定義
2016年4月 OECD、オーシャンエコノミーについて、海洋関連産業による経済活動と海洋生態系が提供する資産・製品、サービスを合わせたものと定義
2017年6月 世界銀行、ブルーエコノミーを「経済成長、生活向上、雇用、海洋生態系の健全性のために海洋資源をサステナブルに利用すること」と定義

(出所)古川恵太・渡邉敦「ブルーエコノミー(Blue Economy:BE)概論と類型化」笹川平和財団海洋政策研究所・中国南海研究院編『東アジア海洋問題研究-中国と日本の新たな協調に向けて』東海大学出版部、2020年、各種資料、より野村資本市場研究所作成

1「サステナブル・ブルーエコノミー」及び「オーシャンエコノミー」等と表現される場合もある。
2 古川恵太・渡邉敦「ブルーエコノミー(Blue Economy:BE)概論と類型化」笹川平和財団海洋政策研究所・中国南海研究院編『東アジア海洋問題研究-中国と日本の新たな協調に向けて』東海大学出版部、2020年。
3 United Nations Environment Programme, "Blue Economy Concept Paper," January 15, 2014; 古川恵太・渡邉敦「ブルーエコノミー(Blue Economy:BE)概論と類型化」笹川平和財団海洋政策研究所・中国南海研究院編『東アジア海洋問題研究-中国と日本の新たな協調に向けて』東海大学出版部、2020年。
4 Organisation for Economic Co-operation and Development, "The Ocean Economy in 2030," April 27, 2016.
5 The World Bank, "What is the Blue Economy?" June 6, 2017.
6 World Wide Fund for Nature, "Principles for a Sustainable Blue Economy," May 28, 2015.

詳細は、『野村サステナビリティクォータリー』2023年秋号論文 江夏あかね・門倉朋美「ブルーファイナンスを促進するブルーボンド実務者ガイドと日本の課題」をご参照ください。
こちらの論文は野村資本市場研究所リサーチポータル会員登録(無料)で閲覧できます。

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