ブルーエコノミー(3)サステナブル・ブルーエコノミー実現に向けたファイナンス

地球の表面積の約7割を占める海の経済、環境、社会面の価値はとても大きく、海洋環境の悪化や海洋資源の乱獲等に伴う海の生態系への影響が懸念されています。そのような中、海洋環境や資源を保全しながら、持続可能な経済活動を行う「サステナブル・ブルーエコノミー(SBE)」(または、ブルーエコノミー、オーシャンエコノミー)という考え方が21世紀に入った頃から注目を集めています。

海洋資源の価値(兆ドル)

水産資源(海産物、マングローブ、サンゴ礁、海藻) 6.9
海上交通 5.2
沿岸部での生産物 7.8
二酸化炭素吸収能力 4.3
合計 24.2

(注)世界自然保護基金(WWF)の試算による。

(出所)World Wildlife Fund, "Reviving the Ocean Economy," 2015、より野村資本市場研究所作成

一般に、SBEの実現に向けて必要な資金を金融資本市場から調達することを「ブルーファイナンス」と呼んでいます。例えば、日本を含む18カ国の政府首脳で構成される「持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル1」が2020年12月に公表した首脳文書では、持続可能な海洋経済への転換に向けて、インフラのみでも次の10年間で約90兆ドルの投資が行われるとの予想を示しています2

その一方で、同パネルの支援により専門家が同年に公表した論文では、ブルーファイナンスをめぐる過去10年間の状況を振り返ると、約1.5兆ドルの総付加価値3を創出する海洋経済を支えるために、フィランソロピーと政府開発援助(ODA)合計で約130億ドルしか投資されておらず、民間セクターへの投資は限定的と述べられてます4。また、持続可能な開発目標(SDGs)の目標14「海の豊かさを守ろう」の達成に向けて、世界全体で毎年約1,745.2億ドルが必要と試算されているものの、2017年に開催された国際連合海洋会議に基づくと毎年255億ドルほどしか確保されていないと指摘した研究論文もあります5

ブルーファイナンスに関する主な動向

2018年3月 欧州委員会、世界自然保護基金(WWF)、世界資源研究所(WRI)、欧州投資銀行(EIB)、「持続可能なブルーエコノミーファイナンス原則」を策定。同原則は、国際連合環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が「持続可能な海洋経済に対する金融イニシアティブ」の一環として所管
2018年10月 セーシェル共和国、世界初のブルーボンドを発行
2019年9月 国際連合グローバル・コンパクト(UNGC)、「持続可能な海洋原則」を公表
2020年10月 UNGC、「ブルーボンド発行に関する実務ガイダンス」を公表
2021年9月 アジア開発銀行(ADB)、「グリーン&ブルーボンド・フレームワーク」を策定
2022年1月 国際金融公社(IFC)、「ブルーファイナンスガイドライン」を公表
2022年3月 ADB、「海洋ファイナンス・フレームワーク」を公表
2022年6月 UNEP FI、国際資本市場協会(ICMA)、IFC、ADB及びUNGC、サステナブル・ブルーエコノミーに資金を提供するための債券のグローバルガイダンスの設定の意向を表明
2023年9月 ICMAを始めとした5つの国際的な機関が「持続可能なブルーエコノミーの資金調達のための債券に関する実務者ガイド」を公表

(出所)各種資料、より野村資本市場研究所作成

SBEの実現に向けて、金融資本市場も通じて民間セクターからの資金調達の拡大が求められる中、国際機関が2010年代後半頃からブルーファイナンスに関する原則・ガイドライン等を発出してきました。そして、世界初となった2018年 10月のセーシェル共和国によるブルーボンドの起債を始めとした資金調達事例が徐々に蓄積しつつあります。さらに2023年9月には、5つの国際的な機関(国際資本市場協会〔ICMA〕、国際金融公社〔IFC〕、国際連合環境計画・金融イニシアティブ〔UNEP FI〕、国際連合グローバル・コンパクト〔UNGC〕及びアジア開発銀行〔ADB〕)が「持続可能なブルーエコノミーの資金調達のための債券に関する実務者ガイド」(以下、実務者ガイド)を公表しました6

実務者ガイドは、ブルーボンドをグリーンボンドの一部として位置付け、8つのプロジェクト・カテゴリーを提示しています。現時点のブルーボンドの発行額はグリーンボンドに比して少ないながら、実務者ガイドを通じて世界の金融資本市場におけるブルーボンドの共通認識が醸成され、同ガイドに基づく事例が蓄積されることを通じて、金融資本市場への同金融商品の浸透が徐々に進んでいくと予想されます。

ブルーボンドのプロジェクト・カテゴリーとGBPの環境関連目標への貢献度

ブルーボンドのプロジェクト・カテゴリーとGBPの環境関連目標への貢献度

(注)記号は目標への貢献度を示している。●●●は一次的、●●は二次的、●は三次的。

(出所)International Capital Market Association et al., "Bonds to Finance the Sustainable Blue Economy: A Practitioner's Guide," September 2023、より野村資本市場研究所作成

1 持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネルとは、ノルウェー主導で2018年に立ち上げられた、主要な海洋国家18カ国(ノルウェー、パラオ、日本、インドネシア、ポルトガル、メキシコ、ジャマイカ、カナダ、ガーナ、ケニア、ナミビア、フィジー、チリ、豪州、米国、フランス、英国、セーシェル)の首脳で構成される会議。ハイレベル・パネルは、2025年までに持続可能な海洋計画に沿って、国家管轄権内の海洋区域の100%持続可能な形で管理することにコミットしており、2030年までに同計画を策定するよう、沿岸・海洋国家に呼びかけている。(外務省地球環境課「ハイレベル・パネル首脳文書 〔持続可能な海洋経済のための変革:保護、生産及び繁栄に関するビジョン〕」2020年12月3日、外務省「持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル第5回会合」2023年9月20日)
2 High Level Panel for A Sustainable Ocean Economy, "Transformations for Sustainable Ocean Economy: A Vision for Protection, Production and Prosperity," 2020; 持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル「持続可能な海洋経済のための変革:保護、生産及び繁栄に関するビジョン」2020年。
3 経済協力開発機構(OECD)の試算による2010年の数値。(Organisation for Economic Co-operation and Development, "The Ocean Economy in 2030," April 27, 2016)
4 Sumaila, U.R. et al., "Ocean Finance: Financing the Transition to a Sustainable Ocean Economy," 2020.
5 Despina F. Johansen et al., "The Cost of Saving Our Ocean: Estimating the Funding Gap of Sustainable Development Goal 14," Marine Policy, Vol. 112, February 2020.
6 International Capital Market Association et al., "Bonds to Finance the Sustainable Blue Economy: A Practitioner's Guide," September 2023.

詳細は、『野村サステナビリティクォータリー』2023年秋号論文 江夏あかね・門倉朋美「ブルーファイナンスを促進するブルーボンド実務者ガイドと日本の課題」をご参照ください。
こちらの論文は野村資本市場研究所リサーチポータル会員登録(無料)で閲覧できます。

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