農業も地域貢献も:ノウフク連携の可能性

農福連携、という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。「農業」と「福祉」を掛け合わせた言葉で、農林水産省では「障害者の農業分野での活躍を通じて、農業経営の発展とともに、障害者の自信や生きがいを創出し、社会参画を実現する取組」と説明しています。障がい当事者などには就労機会そして生活の質向上につながる可能性があるほか、農業分野においてはその担い手の確保になる取り組みとして注目を集めています。

野村アグリプランニング&アドバイザリー(NAPA)では、レポート「生きる力を育み企業価値を高める農と食のちから~特例子会社によるアグリ・フードビジネスへの参入~」のなかで「農福連携」を事例とともに解説しています。

基幹的農業従事者数と65歳以上の割合

基幹的農業従事者数と65歳以上の割合

(出所)農林水産省「農業構造調査結果」よりNAPA作成

農業分野の外国人労働者数

農業分野の外国人労働者数

(出所)農林水産省(2022)「農業分野における新たな外国人材の受入れについて」

日本の農業を取り巻く環境を見ると、この15年間で基幹的農業従業者(年間を通して農業を営む者)は約40%も減少しました。また約7割の人が65歳以上と高齢化も進み、これらの傾向は今後も続くと予想されています。この環境下で存在感を強めてきたのが外国人労働者。2015年頃から増加し始め、なかでも技能実習生1は農業を担う貴重な働き手となってきました。しかし2021年は新型コロナによる入国制限の影響を受けその数は減少、2019年から開始した特定技能制度2においても、このところの円安・物価高が影響し、外国人労働者の確保は困難な状況が続いています。

1. 技能実習制度は1993 年に導入され、「技能実習」の在留資格で日本に在留する外国人が報酬を伴う実習を行う制度。最長5年で、入国後1 年目の技能等を修得する活動と、2・3 年目以降の修得した技能等に習熟するための活動とに分けられている。農業においては、施設園芸、畑作・野菜、果樹、養豚、養鶏、酪農について従事可能となっている。

2. 人材を確保することが困難な状況にある産業分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を受け入れる制度。最長5年の在留期間が与えられ、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業で受け入れることができる。

こうした現状を背景に、今注目されているのが「農福連携」。実はこの言葉は2010年にはすでに存在し、鳥取県が農業者と障害福祉サービス事業所をマッチングする「農福連携モデル事業」を開始したのが最初と言われています。2019年に省庁横断の農福連携等推進会議が「農福連携等推進ビジョン」を策定すると、農福連携に取り組む主体数を5年間で3,000件増やし7,117件にする目標が掲げられました。また同年には日本農林規格に「ノウフクJAS(障害者が生産工程に携わった食品の農林規格)」が追加され、食品の信頼性向上そして障がい者の安定雇用を支援する制度の整備も進んでいます。

農福連携のタイプ

農福連携のタイプ

(出所)NAPA作成

農福連携には一般的に5つのタイプがあり、レポートではこのうち(4)特例子会社主導型を取り上げています。

食農特例子会社の推移

食農特例子会社の推移

(注)食農特例子会社は2022年時点で一部でも食農事業を行っている会社
(出所)厚生労働省「『特例子会社』制度の概要」、各社ホームページよりNAPA作成

近年、特例子会社の新規事業として農業・食産業に関する事業を立ち上げる、または農業・食産業を主体に特例子会社(以下、食農特例子会社)を設立する事例が増えています。2021年度末時点で、特例子会社全体の13%にあたる73社が食農特例子会社でした。この産業が注目を集めるのには、作業を細分化でき、手作業が多く、障がい者それぞれの特性にあわせた作業を提供できることがあります。障がい当事者が徐々にスキルアップを目指せる環境を作ることで、企業の成長につながる可能性も大きくなります。また地域活性化の側面からは、農家の高齢化・後継者不足により課題になっている耕作放棄地の解消、そして地域農業の振興にも貢献するものと、農福連携の可能性に大きな期待が寄せられています。

具体的な取り組み事例や、農福連携、特定子会社を取り巻く環境については、NAPAのレポート「生きる力を育み企業価値を高める農と食のちから ~特例子会社によるアグリ・フードビジネスへの参入~」で詳しく紹介しています。

特例子会社とは

「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき、事業主には従業員の一定割合以上の障がい者雇用が義務付けられています。特例子会社は、障がい者の雇用に特別の配慮をした子会社で、以下の要件を満たす場合には、特例としてその子会社に雇用されている就業者を親会社に雇用されているとみなして実雇用率を算定できるものです。

  • 親会社との人的関係が緊密であること(具体的には、親会社からの役員派遣等)
  • 雇用される障がい者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であること。また、雇用される障がい者に占める重度身体障がい者、知的障がい者、および精神障がい者の割合が30%以上であること
  • 障がい者の雇用管理を適正に行うに足りる能力を有していること(具体的には、障がい者のための施設の改善、専任の指導員の配置等)
  • その他、障がい者の雇用の促進及び安定が確実に達成されると認められること

SDGs17の目標

  • 8 働きがいも経済成長も
  • 10 人や国の不平等をなくそう
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
野村のSDGs一覧

関連記事

野村のSDGs一覧