野村 亜紀子、中村 美江奈
- ファイナンシャル・ウェルネス(金融面で幸福な状態)は、基本的には個人の問題だが、米国では職場を通じた従業員のファイナンシャル・ウェルネス支援が定着している。その背景には、生産性や業績にプラスと考えられていること、公的な医療保険制度が限定的で歴史的に職域の医療保険が極めて重要であること、確定拠出型年金の加入者向けサービスが起点になったことなどが挙げられる。
- 日本企業においても、人的資本経営の取り組みが強化される中で、従業員のウェルビーイングへの注目度が高まっている。売り手市場の雇用環境と相まって、企業は優秀な人材確保の努力が従来以上に求められている。日米の福利厚生制度をめぐる背景は様々な点で異なるが、急激な物価上昇への対応のような共通の課題も見られる。
- 米国では、多くの企業が従業員への金融面の支援について、法定開示のフォーム10-Kや任意開示で具体的に記載している。例えばコカ・コーラは、10-Kにおいて、個別の制度は国や地域に応じて競争力のあるものを提供する一方で、福利厚生戦略の中でグローバルな最低基準を設定すると記した上で、具体的な制度を紹介している。
- 日本でも、有価証券報告書や任意開示資料において、従業員のウェルビーイングについて記載する企業が増加しているが、金融面に絞り込んだ記載は未だ希少と言える。もっとも、味の素や富士通、武田薬品はウェルビーイングの1つの要素として金融面の重要性に言及する等、米国企業に近しい記述を行っているケースも出始めている。
- 特徴的なファイナンシャル・ウェルネス支援を追求し、開示を通じて投資家等のステークホルダーに伝えようとする米国企業の取り組みは、日本企業としても参照する余地があるものと思われる。