2023年7月7日
4大メジャー大会の最終戦である「全英オープン」が、7月20~23日にイギリス中西部にあるロイヤルリバプール・ゴルフクラブで開催されます。1860年に第1回が開催され、今年で151回目となるこの大会は、メジャーの中で最も長い歴史を誇ります。アメリカでは「British Open」と表記されることもありますが、正式な大会名は「The Open Championship」。全米オープン同様、アマチュアでも一定の条件を満たせば予選に参加することができます。
1999年大会。2位に3打差の首位で最終日の18番に来たジャン・ヴァンデベルデはティーショットを隣のホールへ曲げてしまいます。ここからグリーンを狙った2打目はギャラリースタンドに当たって深いラフへ。上手く出せずに3打目はクリーク(小川)へ落ちました。罰打を払っての5打目はバンカーにつかまり結果は6オン1パットのトリプルボギー。さらにプレーオフで敗れてメジャー制覇を逃したことは「ゴルフ史上最大の悲劇」ともいえる逆転負けとして今でも語り継がれています。
一方でピンチをしのいで勝利につなげた代表例がセベ・バレステロスでした。1979年大会の最終日に16番のティーショットを臨時駐車場まで曲げ、ボールは車の下に入り込んでしまいます。車を移動してもらい、ここから打った2打目をグリーンに乗せてバーディーを奪うという歴史的なリカバリーショットのおかげで全英での初優勝を挙げました。似たことをしたのが、2017年大会でのジョーダン・スピース。13番のティーショットはボールが打てないほど深いブッシュに入りアンプレヤブルを宣言。罰打を払った上での3打目はグリーン手前まで運んでボギーセーブ。「ボギーなら許容範囲。ダブルボギー以上にしたら勝てなくなる」と判断した状況で"ケガ"を最小限にして勝利につなげました。
優勝者には当初「チャレンジベルト」が贈呈されていました。3連覇すると永久に保持できるという当時のルールを達成したのが、1868~1870年大会で勝利したトム・モリス・ジュニアでした。優勝者に贈るものがなくなってしまった翌1871年大会はなんと不開催。ベルトに代わるものとして作られたのが「クラレットジャグ」でした。残念ながら1872年大会には完成が間に合わず、優勝者に贈られるようになったのは1873年から。なお現在は主催者であるR&A(the Royal and Ancient、ロイヤル&エンシェント)がオリジナルを保管し、優勝者にはレプリカが贈られています。
大会は「リンクス」と呼ばれる海沿いのコースで開催されます。現在は8コースのローテーションで行われ、中でも有名なのはR&A本部のあるセントアンドリュースのオールドコース。16世紀にこのコースでプレーされたのが、現在の「ゴルフ」のスタートとされています。海沿いということで高い木はほとんどなく、ところどころにあるのは自然のままの深いブッシュ。ここに入れると脱出するだけでも大変です。強い風の影響でどれだけボールが曲がるのか、硬い地面をどれだけボールが転がり、ブッシュに入らないためにはどうするかを、いかに正しくジャッジできるかが好スコアへの条件となります。風に翻弄されても、基本的には「あるがまま」(play the ball as it lies)でプレーする。ゴルフの原点ともいえるスタイルがリンクスにはあります。
大会は伝統的に150人を超える出場選手がすべて1番ホールからスタートするため、スタート時刻は午前6時台から午後3時ごろにまでに及びます。こうなると到底同じ条件でのプレーなどできるはずもありません。気候も半そで1枚でプレーできることもあれば、強風に雨が加わると一気に体感気温が0度ぐらいになることも。この変化の激しさから「一日のうちに四季がある」とも表現される気候対策のため、真夏でも "冬仕様"の準備が必須。過去には1週間分のウエアがスーツケース7個分になった選手がいたほどでした。
「全英オープン」では、何万人もの観客が来ても豊かな自然や野生生物の生態系を壊すことのないよう、さらに将来も変わらぬ姿のままでいられるように、専門家などと協議をしています。コースで販売されるフードは、基本的に地元で生産される材料を使った「地産地消」。食器には、使用後は自然に還る素材が使われています。ギャラリーに対しても、可能な限り公共交通機関またはカーシェアリングを利用し、ごみは正しく分別、コースでは指定された場所を歩き自然の破壊を避ける、といったことでの協力を求めています。
世界のトップゴルファーがその技を競い合う環境だけでなく、そこにある自然環境そのものを永遠に残していくことをテーマに掲げているのが「全英オープン」です。
文:森伊知郎