日経平均株価2万円台定着の可能性

巻頭言2017年夏号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

17年6月2日に、日経平均株価は20,177円と1年半ぶりに2万円台を回復、2000年以降では2000年、15年、そして今回と3回目の2万円台回復となった。日経平均株価2万円台は定着するのか。野村の判断は定着し、さらに上を目指す公算があるというものだ。

第1に、世界の景気は良いが、インフレ率は低く、中央銀行の金融政策はタカ派(金融引き締め重視)化しないと見られることである。

まず米国から見てみよう。FRB(連邦準備制度理事会)は6月13~14日にFOMC(公開市場委員会)を開き、経済見通しを改定した。実質GDP(国内総生産)成長率(10~12月期の前年比)の予測値は前回(3月)からほぼ変わらず、17年が2.2%、18年が2.1%である。一方、コアPCE(個人消費支出)インフレ率(10~12月期の前年比)は17年が前回比0.2%下方修正の1.7%、18年が前回と同じ2.0%である。米国でさえインフレ率の見通しは下方修正されている。

そして、金融市場は、FRBは9月に量的緩和政策の下で保有した国債等の規模縮小を小幅に開始した後、12月に次の利上げを行うと見ている。12月に0.25%利上げをしても、17年末のフェデラル・ファンド(FF)金利は1.375%で、インフレ率を差し引いた実質FF金利はマイナス領域に留まる見通しだ。

次いで、ECB(欧州中央銀行)も緩和政策の修正を考え始めているが、インフレ率が低いので、タカ派化はしそうにない。まして、日本銀行はようやくコアCPI(消費者物価指数)が前年比プラスに転じたばかりで、2%の物価目標達成までには距離があり、出口戦略を語る状況にはない。

結局、失業率の低下にも関わらず賃金上昇率が鈍い状況が先進国全般に広がり、インフレ率が低い中では金融政策のタカ派化は避けられ、18年以降も緩やかな世界景気の拡大が続く見通しである。

第2に、結果次第ではEU(欧州連合)崩壊の始まりとなりかねなかった5月7日の仏大統領選挙の決選投票で、反EUを主張した国民戦線のルペン候補が敗れ、親EUのマクロン大統領が誕生したことだ。マクロン大統領は6月18日の国民議会選挙でも勝利し、国民議会の過半数を共和国前進(マクロン派)で占めることになった。

マクロン政権は労働市場の柔軟化や企業の税負担の軽減等を通じ、企業の競争力強化に取り組むと同時に、5月15日の独仏首脳会談で今後の交渉課題とすることで合意したユーロ圏の財政統合を含む条約改正にドイツのメルケル首相と共に乗り出すことになろう。なかなか難しい課題だが、ユーロ圏財務省が出来、域内経済の底上げを財政政策で行うことが出来るようになるとユーロ圏経済にはプラスだろう。

第3に、日本の企業の稼ぐ力が増していることだ。上場会社の16年度決算は、ラッセル/野村大型株ユニバース(除く金融)で見て、前年度比3.3%減収、同3.6%経常増益となった。為替レートは15年度の1ドル=120円から16年度は1ドル=108円と円高となり、海外子会社の売上、利益の円換算値は大きく減少した。そのもとで、小幅とは言え増益になったことは収益体質が強くなっている証である。

前回春号の巻頭言でも指摘したが、(1)事業の選択と集中が効いてきていることが大きい。エチレンプラントの能力削減で稼働率が上昇し、化学企業の利益の上振れに繋がった。また、電機企業ではテレビ、携帯端末等の不採算の民生用電子機器を縮小させ、ゲーム機、半導体、白物家電、EV(電気自動車)用電池等を拡大させ、収益性を回復させている。さらに、小売業でもスーパー事業での不採算店舗の閉鎖とコンビニエンスストア事業の拡大等が行われている。

(2)多角化した海外事業が世界景気の回復、販路の拡大、リストラの成功等で利益を生むようになっている。自動車部品、加工食品、化粧品・紙おむつ、通信、金融等数多くのセクターで海外事業の収益性改善、向上が確認できる。

(3)IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ時代を迎え、サーバー向けの半導体、半導体製造装置が爆発的に拡大し、インターネット通販の拡大で流通倉庫の増設が進む等、技術革新を背景にした動きも盛んだ。17年度、18年度と企業収益は持続的に拡大しよう。

以上を踏まえると、日経平均株価2万円は通過点であり、17年末には2.1万円、18年末にはさらに上昇していく可能性があるように見える。

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