議決権行使から見た日本企業のガバナンス
論文2008年秋号
野村證券金融経済研究所投資調査部 西山 賢吾
目次
- I.はじめに
- II.2008年総会の特徴
- III.議決権行使から見たコーポレート・ガバナンスの進化
- 議案送付の早期化
- 株主提案の減少
- 「対話」と「説明」に努めた会社側
- 投資家側の動き
- IV.なお残る会社と投資家との「微妙な距離感」
- 2008年も否決がなかった買収防衛策
- 緩やかながらも進行する持ち合い
- 社外取締役
- 資本政策と株主還元
- V.今後の展望
- 個人株主の議決権行使が一段と重要に
- 買収防衛策への対応
- 一段と重みを増す役員選任
- 「微妙な距離感」縮小に向けて
- VI.おわりに
要約と結論
- 2008年総会においては、株主提案が減少したものの、「企業価値向上のための提言」などの形での株主からの「働きかけ」はむしろ増加した。一方、株主還元策の拡充やROE(自己資本利益率)等の数値目標を公表する企業が増えるなど、企業と投資家との「対話」はこれまで以上に進んだと考えられる。
- このように「対話」と「説明」が一段と進んだことは、わが国のコーポレート・ガバナンスの進化を示すものとして、株式市場において日本企業に対する積極評価を後押しする要因になると考える。しかし、課題も残存している。企業価値向上策との関連が不明瞭なまま買収防衛策を導入する企業が見られることや、安定株主作りが主眼と推察される持ち合いの拡大が見られることなどがその典型である。こうした点に投資家は企業との「微妙な距離感」を感じている。
- 投資家と企業との間の「微妙な距離感」を縮めることが、双方にとってこれからの課題と考えられる。その実現のために、機関投資家は従来以上に企業とのコミュニケーション拡充を積極的、かつ主体的に行っていくことが想定される。これに伴い、会社側も議案のみならず経営方針や企業価値向上策を従来以上に明確に、かつ分かりやすく使えていくことが、これまでにも増して重要になるであろう。