我が国の本格的なリバース・モーゲージの普及に向けて
論文2013年春号
野村資本市場研究所 小島 俊郎
目次
- I.はじめに
- 収入不足にある高齢者世帯
- リバース・モーゲージとは
- 代表的なリバース・モーゲージの特長
- II.米国のリバース・モーゲージの歩みと現状
- 高齢化の進展とリバース・モーゲージ
- 終身型リバース・モーゲージへの挑戦
- HECMの誕生と政府の役割
- III.我が国のリバース・モーゲージの歩みと現状
- 我が国のリバース・モーゲージの歩み
- 我が国のリバース・モーゲージの特徴
- IV.リバース・モーゲージと政府の役割
- 民間では取り難い担保割れリスク
- リバース・モーゲージへの流動性供与
- V.本格的なリバース・モーゲージに向けて
- 求められる政府の関与
- 住宅の適格担保化
- VI.内需拡大の起爆剤に
- 補論1.各国のリバース・モーゲージ
- 英国のリバース・モーゲージ
- 韓国のリバース・モーゲージ
- 補論2.米国のHECMの現状と課題
- 固定金利が主流となったHECM
- 新たなリスクの増大
- 大きな損失を抱えたFHA
- 補論1.各国のリバース・モーゲージ
要約と結論
- 我が国の高齢者夫婦無職世帯は月約4万円収入が不足しており、金融資産を取り崩して対応しているが、金融資産だけでは不安な状況にある。そのため、高齢者世帯の資産の半分以上を占める住宅・宅地資産の流動化策としてリバース・モーゲージが期待されている。
- 米国では1960年代から官民でリバース・モーゲージの開発を行ってきた。しかし、ノンリコース(非遡及型)・終身年金融資・期中無返済という3条件を満たす商品を民間だけで提供することは困難であり、米国では政府が保険で担保割れリスクを引き受けることで市場が拡大した。
- 我が国のリバース・モーゲージは、1981年に東京都武蔵野市の「福祉資金貸付事業」が始まりで、現在は少数の金融機関で取り扱いを行っている。我が国のリバース・モーゲージは、米国のようなノンリコース・終身年金融資・期中無返済という3条件を満たしておらず、これが普及しない大きな要因のひとつと考えられる。
- 英国のように政府が関与しないでリバース・モーゲージを提供している国も存在するが、終身年金型の融資形態はとられておらず、終身年金型の条件を満たすには政府の関与が必要と考える。また、米国ではHECMの流動性供与にも大きく政府が関与しており、市場拡大に重要な役割を果たしている。
- 我が国で3条件を満たすためには、米国のような政府の関与が必要である。私案であるが、リバース・モーゲージを買い取ることにより、担保割れリスクを負担し、併せて民間金融機関の資金調達を容易にする機構の政府による設立を提案したい。さらに、我が国では原則として土地のみしか担保として認められておらず、平均的な敷地面積を所有しているだけでは多くの地域で十分な借入は出来ない。住宅が資産として認められるような政策が必要となっている。
- リバース・モーゲージの市場規模を推計すると約4.5兆円となり、住宅ローン市場の180兆円に比べ限定的なものとなろう。しかし、リバース・モーゲージがラスト・リゾー卜として機能すれば、高齢者の将来の資金不足に対する不安が払拭される可能性があり、「万が一のための貯蓄」が消費に向かえば、内需拡大の起爆剤となる可能性がある。