さらに歩みを進める企業統治改革

論文2018年春号

野村資本市場研究所 西山 賢吾

目次

  1. I.はじめに
    1. 企業統治改革は継続中
    2. 数字に見る改革の「成果」と「課題」
  2. II.SSコードの改訂と「議決権行使結果個別開示元年」の議決権行使状況
    1. SSコード改訂で議決権行使結果の個別開示が要請される
    2. 主要議案の賛否動向-大きな変化は見られず
    3. 議決権行使結果の個別開示が始まる
    4. 18年以降の株主総会の注目点
  3. III.企業統治改革における今後の注目点
    1. 我が国でも始まる集団的エンゲージメント
    2. FDルール制定を対話深化の好機に
    3. CGコードの改訂
    4. 会社法の見直し
    5. 拡大続くESG投資と「対話の深化」
    6. 「真の実質主義」に向かう企業統治改革
  4. IV.終わりに

要約と結論

  1. 2017年5月のスチュワードシップ・コードの改訂により、国内外70余りの機関投資家が議決権行使結果の個別開示を開始した。「議決権行使結果個別開示元年」となった17年6月開催の株主総会の結果を見る限り、主要議案の賛成率は16年6月と比べ大きな変化はなく、個別開示が機関投資家の議決権行使を厳格化したとは言い難い。それでも、一部企業の経営トップの取締役選任議案ではさまざまな理由から賛成率の低い事例が見られている。ただし、企業から見れば反対理由が分かりにくい事例も存在すると考えられる。
  2. 17年6月の株主総会の結果とその後の動きを見る限り、議決権行使結果を糸口として対話が活発化している状態とは言い難い。企業側からは機関投資家の議決権行使が従来に増して「杓子定規」な判断になっているとの懸念が聞かれる一方、機関投資家側からは議決権行使結果に関する企業側からの問い合わせや説明には大きな変化がないとの意見が聞かれた。個別開示が期待された役割を果たすために、今後は議決権行使結果の個別開示と対話の深化で両者の相互理解を深めるというプロセスの構築が課題となるであろう。
  3. 現政権の重要な政策課題として実施され、これまで一定の成果を挙げてきたコーポレートガバナンス改革は、残された課題を克服するため、コーポレートガバナンス・コードの改訂や企業価値協創ガイダンスの活用など、更なる動きが見られている。改革が単なる「形式主義」に留まるのではなく、企業と投資家が対話の深化を通じ相互理解を深めながら中長期的、持続的な企業価値を共同して創り上げる、「真の実質主義」の実現に向け、歩み続けることが重要である