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女子ゴルフ-名手たちも"あわや"だった華麗な世界への狭き門

人気沸騰中の日本女子ゴルフ。ツアーでは毎週のように「黄金世代」「プラチナ世代」などから新たなヒロインが誕生しています。ところで彼女たちはどのような過程を経て「プロゴルファー」になったのでしょうか。まず立ちはだかるのは、倍率30倍の難関です。

メジャー覇者の渋野日向子、笹生優花。銀メダリストの稲見萌寧もぎりぎりで合格

プロゴルファーになるためには、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)が年に一度実施するプロテストを受験する必要があります。テストは「1次」「2次」と「最終」の3段階で行われ、4日間72ホールで争われる最終テストの上位20位タイまでが合格です。2022年の受験者数は649人、今年は700人前後になると見込まれており、倍率は30倍前後にもなります。

ひとつでも上の順位を目指す通常の試合と違い、合格と不合格で明暗がくっきり分かれるラウンドの緊張感は相当なもの。2019年全英女子オープン優勝の渋野日向子が2018年に挑んだプロテストでは、あと3打悪かったら不合格だった、ということからもそのプレッシャーの大きさが想像できます。東京2020オリンピック銀メダリストの稲見萌寧や、2021年全米女子オープン覇者の笹生優花も、それぞれ2018年、2019年に受けたプロテストでは合格ラインぎりぎりでした。

テレビや配信を通して見る女子プロゴルフは、多くのギャラリーが集まる華やかな世界ですが、プロテストは「一般企業で入社試験に相当する資格認定の場であって、興行ではない」(JLPGA)ため観客は入れず、付き添いの親や関係者であっても観戦が禁止されるなど、他にはない独特の雰囲気が漂います。

1期生は樋口久子さん 「藍ルール」など時代に沿った変更も

最初のプロテストが行われたのは1967年。当時はまだJLPGAが発足しておらず、日本プロゴルフ協会の「女子部」としてテストが実施されました。前JLPGA会長で、日本人として初めて海外メジャーを制覇(1977年全米女子プロ)した樋口久子さんらが合格しています。

プロゴルファーには、ツアー出場をめざす選手と、レッスンを生業とする「ティーチング」の2種類があり、以前はひとつだったプロテストも現在は異なる合格条件で別々に行われています。このように時代に応じてルールも進化をしていますが、なかでも代表的なのが2003年の例。それまでアマチュアがプロゴルファーになるには学科と実技からなるテストを受験するしかありませんでした。しかし2003年のシーズンを前に「ツアーで優勝するということはプロとしての実力を持っている」と認められ、実技試験が免除されるようになったのです。当時アマチュアで大活躍していたのが、2002年のアジア大会で金メダルを獲得した宮里藍さん。そのため一部では「彼女のための『藍ルール』」と呼ばれたこともありましたが、宮里さんはその期待に応えるように2003年9月に見事ツアーで優勝すると、11月にプロデビューを果たしました。

もう1つ特徴的なのが、2019年のルール改正で引き下げられた受験資格年齢。それまで受験年度の4月1日に満18歳以上である必要があり、高校を卒業してからでないと受験できませんでした。それが、「野球やサッカーなどと同様に高校卒業後すぐにプロとして活動できるように」と、満17歳以上であれば受験することが可能になりました。この年さっそく新ルールを活用したのが笹生や2022年シーズン年間女王の山下美夢有。見事プロテストに合格し、チャンスをモノにした彼女たちが素晴らしかったはもちろん、そのチャンスを与えたJLPGAに先見の明があったといえるでしょう。

プロテストに合格しても終わりではない。1年後にも再度行われる新人セミナー

プロテストに合格しJLPGAの会員証(ラインセンス)を受け取った選手は全員、シーズン開始前に実施される「新人セミナー」に参加することが義務付けられています。2022年は4日間に渡って行われ、「ゴルフ規則」から「魅力的なプロゴルファーになるための演出術」「税金の基礎知識」「ファイナンシャルプラン」「アンチ・ドーピング」「広報(メディア対応)」「SNS利用時の注意点」などさまざまなことを学びました。このセミナーは翌年のシーズンオフにも参加しなければならず、実際に1年間「プロゴルファー」として活動した上で、必要なことがしっかり身に付いているかを再確認する場となっています。

なお、2年目以降であっても言動に問題がある選手は再受講を命じられるケースもあります。

プロゴルファーになってもツアーに出られるわけではない。次の関門「QT」とは

プロテストに合格しセミナーを受講したら、いよいよツアーの晴れ舞台で活躍!となるわけではなりません。日本の女子プロゴルフは、テレビなどで目にするトップレベルの「JLPGAツアー」と、二部に相当する「ステップ・アップ・ツアー」の二段階があり、いずれも参戦するためにはプロテスト合格後に「クォリファイングトーナメント」(QT)で出場資格を得ることが必要です。QTについては、次回説明します。

文:森伊知郎

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