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野村グループにおけるグローバル・リスク管理のさらなる高度化について

2021年10月29日

野村ホールディングス株式会社

野村ホールディングス株式会社(代表執行役社長 グループCEO:奥田健太郎、以下「当社」)では、本年3月に米国で発生した多額損失事案を受けて、本年5月末より8月半ばまでリスク管理フレームワークの総合的なレビューを実施し、リスク管理のさらなる高度化に向けた包括的な諸施策を検討してきました。その成果として、諸施策について一定の方向性が固まり、諸施策実施の体制が整いましたので、今般、当社のグローバル・リスク管理のさらなる高度化への取組みを報告することとしました。

当社は、グローバルな金融サービス・グループとして、国内外の顧客に価値ある商品・サービスを提供することを目指しています。商品・サービスの多様化、多国間で複合的に展開される事業活動の範囲や広がりを考えると、当社の顧客、取引先、株主が当社により高水準のリスク管理を求めることは当然であり、リスク管理の高度化は当社自身にとって不可欠なことです。

多額損失事案の発生直後から当社のリスク管理ならびに業務運営のプロセス、手順および組織体制について順次検証を実施しました。そして、当該検証を通じて、環境に即した業務運営のあり方、関連部門におけるコミュニケーションや部門間の相互連携、経営リソースの配分等について、課題が明らかになりました。これらの明らかになった課題を踏まえつつ、関連部門における組織体制や陣容の刷新を含め、さらなるリスク管理の高度化に取り組んできました。

グループCEO以下当社経営陣は、リスク管理態勢の高度化推進は、今後中長期にわたる当社の最重要プロジェクトの一つであるとともに、重要な経営課題である、と認識しています。全役職員のリスク・カルチャーの向上を含め、グループの総力を挙げたリスク管理の高度化に向けた取組みをやりとげることにより経営責任を全うしていきます。

当社では、このリスク管理のさらなる高度化を、野村グループが社会課題の解決に貢献する、高度な金融サービスの担い手であり続けるための経営体制の強化と位置付けています。そのため、重要施策は取締役会レベルのガバナンスや執行体制の強化・拡充に始まり、広範なものとなっています。

ステークホルダーとの対話も踏まえながら、かかる高度化の重要施策として、当社は、取締役会のレベルにおいて、業務執行に対する広範かつ厳格な牽制と監督を行う一環として、より高度で深度あるリスク管理態勢の整備等について、執行から独立した視点からの監督を強化する目的で、社外取締役と非業務執行取締役により構成される「リスク委員会(英文名称:Board Risk Committee)」を設置し、すでに運営を開始しました。今後は、リスク委員会の監督のもと、経営陣がその責任においてリスク管理の高度化施策を遂行し、体制構築と運営に万全を期していきます。

また、リスク管理の高度化に向けたさまざまな施策をグローバルに連携し推進する体制をさらに強化する観点から、グループCEOの奥田健太郎を委員長とする「リスク管理高度化推進委員会」を設置しました。加えて、施策推進のリーダーシップを担うチーフ・トランスフォーメーション・オフィサー(CTO:Chief Transformation Officer)を新たに設け、グループCAOであった執行役員のJonathan Lewisを任命しました。CTOは策定されたさまざまな施策について、グループCEOの直接の指揮のもと、その完遂に向けた統制を行っていきます。

リスク管理高度化推進委員会のもと、既に具体的な高度化施策が検討され、実装に向けた取組みを始めています。具体的な高度化施策の実施にあたっては、「ビジネス戦略」、「業務執行管理」、「リスク管理」および「リスク・カルチャー」の4つに分類し、それぞれに執行役または執行役員を責任者として設置し、必要な経営資源を優先して投入していきます。

具体的な高度化施策の概要は以下のとおりです。

高度化施策の概要

1. リスク委員会(BRC:Board Risk Committee)の設置

(1)目的及び権限

取締役会の監督機能を更に強化するための専門監督機関として、主として下記の事項に関し、取締役会による監督の深化に努め、グループのリスク管理の高度化に資することを目的とします。

1. リスク・アぺタイト・ステートメントに対する同意

2. リスク管理フレームワークの主要設計に対する同意

3. リスク環境の分析・検証結果および今後の予測

4. リスク管理全般の執行状況および中長期的なリスク戦略の監督

(2)委員の構成

社外取締役を委員長とし、6名中5名を社外取締役、1名を非業務執行の社内取締役とし、執行からの独立性の高い構成としています。
(委員長)Laura Unger取締役(社外)
(委員)島崎憲明取締役(社外、監査委員長)、Victor Chu取締役(社外)、Christopher Giancarlo取締役(社外)、Patricia Mosser取締役(社外)、小川祥司取締役(監査委員)

米国証券取引委員会(SEC)の委員及び委員長代行を歴任。

2. 執行側におけるリスク管理に関するガバナンス体制の強化

(1)グループ・リスク管理委員会の設置

これまで当社では、リスク管理に関する執行側の最上位の会議体として、「統合リスク管理会議」を置き、リスク管理全般に関する重要事項を審議していました。今般、取締役レベルでのリスク委員会の新設に合わせ、執行側でもシニアマネジメントによるリスク管理への関与をさらに強めるべく、統合リスク管理会議を発展的に改組し、「グループ・リスク管理委員会」を設置しました。グループ・リスク管理委員会は、執行側におけるリスク管理に関する最高意思決定機関として、リスク・アぺタイト・ステートメント及びリスク管理フレームワークの策定に加え、リスク管理体制強化のための対応状況等について第1線(ビジネス)からの報告を受け、必要な審議を行うなどの責任を有すものとしています。

(2)業務運営体制の強化・拡充

グローバルな金融機関として価値ある商品・サービスを提供するための更なる体制強化を図る目的で、この5月に米国拠点のCo-CEOを採用したほか、以下のような取組みを進めています。

1. ホールセール部門
第1線におけるリスク管理機能の強化が重要であることに鑑み、多国間で複合的に展開されるビジネスに対し、より強固な執行管理を行うため、フロント・オフィスにおいてリスク・コントロールを統括する役割を担うグローバル・ヘッドを採用し、また、グローバルに顧客のアクティビティのマネジメントや社内連携を統括する役割を担うグローバル・ヘッドを採用予定です。これに加えて、エクイティのインターナショナル・ヘッドを採用しました。

2. リスクマネジメント部門
リスクマネジメントを担当する新任の執行役員を東京本社に置く等により、リスク管理機能におけるマネジメント層の拡充及びグローバルな連携と統制の体制を強化し、リスク管理の一層の高度化を図ってまいります。また、リスク管理の高度化の取組みおよび業務運営の実務を統括し、推進する体制の強化を図る目的で、当社に「グループ・リスク・マネジメント統括部(Group Risk Management Head Office)」を新設します。当部はグローバルに展開されるリスク管理業務についてその状況を把握し、グループCROの業務を支援するとともに、関連各部署との連携強化を図ります。このほか、米州において、チーフ・リスク・オフィサーのほか、クレジットリスク管理におけるシニアスタッフを含め重点的に採用を行っております。

3. リスク管理高度化に向けた主な施策

(1)リスク管理高度化推進委員会の設置

リスク管理のさらなる高度化に関する諸施策の検討・実行をグループ全体で推進するため、「リスク管理高度化推進委員会」を設置しました。
リスク管理高度化推進委員会の委員長はグループCEOの奥田健太郎、副委員長は代表執行役副社長の寺口智之が務め、野村ホールディングス本社が諸施策推進のガバナンスを統括します。また委員会のメンバーである執行役員のJonathan Lewisが、新たにCTOの役割を担い、そのリーダーシップの下で、グループ全体の諸施策を推進し、地域間の連携と一貫性を担保していきます。
リスク管理高度化推進委員会では、諸施策の策定・執行の監督、関連するリソースの確保、施策達成に向けたグローバルな協力体制の整備等について審議し、高度化施策の実施を確実なものとしていきます。

(2)主な施策の概要

本年5月より約3か月をかけ、リスク管理フレームワークの総合的なレビューを実施しました。同レビューにおいては、主にホールセール部門、リスクマネジメント、インターナル・オーディットに関連する部署を対象として、リスク・カルチャーのあり方や、ガバナンス、管理体制、業務プロセス等を精査しました。
高度化施策には同レビューの結果を反映させ、以下の4つに分類して対応を進めております。CTOがその実施状況を総覧するとともに、リスク管理高度化推進委員会において実施内容を確認し、必要な追加施策を審議し実行を決定します。それぞれの分類における主な施策は以下の通りです。

1. ビジネス戦略
グローバル・マーケッツのビジネス戦略を明確化し、ビジネスポートフォリオをさまざまな形式で定期的にレビューすることで、リスクプロファイルが当社の戦略的方向性やリスク・アぺタイト、リソース配分等に整合的であるように保っていきます。

2. 業務執行管理
より堅牢なグローバル・クロスボーダー・ガバナンス・フレームワークを構築するために、クロスボーダー・ブッキングモデル及び現地エンティティにおける統制について、フロント・オフィスからバック・オフィスまでのレビューを行います。また、上記2(2)1.の通り、グローバルな業務執行管理の強化に向けた重要な役職の新設と採用を進めています。

3. リスク管理
第1線の中のリスク・コントロール機能及び第2線におけるリスク管理機能の強化のため、それぞれ大幅な人員増強を計画しており、さらに第3線であるインターナル・オーディットにおいても人員増強を計画しています。また、リスク・アペタイトの関連プロセスにも改善を加え、「リスク・アペタイト・ステートメント」への定量的な指標の追加や、ビジネス全体にわたるリミット・フレームワークの見直しなどに取り組んでいきます。

4. リスク・カルチャー
リスク管理及びそれに対する責任感をより強く根付かせるための全社プログラムを立ち上げます。具体的には、適切な行動を積極的に評価し、浸透させていくため、野村グループ行動規範の改訂を行う他、コンダクト関連のワークショップや年次研修を全地域へ展開し、また、インセンティブ付与の方針や実務を体系的に見直し、変更するといった取り組みに着手しています。それらの進捗状況を測定するため、リスク・カルチャー・サーベイや指標の検討といった、プログラムの実効性を確認する枠組みを構築する予定です。

(参照)
米国顧客との取引に関連する損失事案の詳細(「2021年3月期有価証券報告書」より抜粋し、一部記載を更新)

2021年3月、米国顧客とのプライム・ブローカレッジ取引において顧客に追加証拠金を要請するも当該顧客から入金されないという事象が発生しました。事象を受け、当社米国子会社(以下、単に「当社」ということがあります)としては当該顧客に対して債務不履行を通知し、契約解消を行い、当該顧客との取引のヘッジとして当社が保有していたポジションの処理を開始しました。
当社と顧客との取引は、(1)顧客が原資産である個別の株式や指数を保有することなく、それらに対するロングまたはショートのエクスポージャーを保有することができるトータル・リターン・スワップ(以下「TRS」)と呼ばれるデリバティブ取引(以下「シンセティック・プライム・ブローカレッジ」)、および(2)顧客の口座にある株式ポートフォリオに対する貸付(以下「キャッシュ・プライム・ブローカレッジ」)から構成されていました。プライム・ブローカレッジ顧客の信用リスク水準を管理するために、同顧客に適用される証拠金比率および保有ポジションに応じた担保(以下「証拠金」)を当社に預託することを求めていました。その証拠金比率は、特定の取引先および取引先のポジション構成に関する内部リスク評価の結果に基づいて決定され、その比率に応じた市場動向の影響に基づいて追加証拠金の差入れを要求する場合があります。顧客とTRS取引を行った場合、当社はそのポジションに応じて個別の株式や指数のロング・ポジションやショート・ポジションの保有により市場リスクの観点からのヘッジを行います。具体的には、顧客がTRS取引で株式のロング・ポジションを保有する場合、当社には反対のショート・ポジションが生じるため、現物株をロング・ポジションし、ヘッジを行います。したがって、顧客が債務不履行になりTRS取引が解消されると、当社には株式のロング・ポジションが残ることになります。また、キャッシュ・プライム・ブローカレッジのポジションに対する貸付は、一般的に余分に担保が設定されているため、個別にヘッジされることはありませんが、当該担保の価値が下落した場合には個別にヘッジを行うこともあります。
特に2021年1月から3月にかけては、市場価格の変動や顧客の新規ポジション取得により、顧客との取引額・取引量が大幅に増加しました。2021年3月にはシンセティック・プライム・ブローカレッジにおいて大口ポジションを保有している一部銘柄の時価が大幅に下落したため、顧客との契約に基づき追加証拠金の差入れを要請しましたが、顧客による債務不履行となり、当社から契約解消を通知しました。当該顧客が他の金融機関とも同様に大口のポジションを保有しており、また、それらの金融機関とも債務不履行を起こしていたことも次第に明らかになりました。当社は市場への影響と当社の損失の最小化を図りながら当該TRS取引に紐づくヘッジおよびポジションの巻き戻しを進めましたが、当社と他の金融機関による大量のポジション処理およびそれに伴う市場価格の変動により、当社は2021年3月期第4四半期および通期のトレーディング損益において2,042億円の損失を計上するに至りました。また、有価証券を担保とした顧客への貸付については、当該貸付分を回収できる可能性が低下したことから、2021年3月期のその他の費用に貸倒引当金として416億円を計上しました。そして、2021年5月17日までに当該顧客との取引をすべて解消し、ヘッジ取引を解消した結果、2022年3月期第1四半期において654億円の損失を計上しました。

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