中長期成長戦略を含む経済対策が重要

巻頭言2008年秋号

野村證券金融経済研究所 経営役・チーフリサーチオフィサー 海津 政信

主要国の間で、米国発の金融不安や資源価格高による世界的な景気減速に対する対応が分かれてきている。日本は米国同様、財政政策を出動させ、景気回復をはかることを鮮明にする一方、欧州はなおインフレ懸念に配慮し、景気対策の発動を躊躇している。また、中国はインフレ率の低下を待って、景気維持に向け財政金融政策の転換を模索し始めた。

我々は、ここ2-3カ月の景況感の急速な悪化を考えると、日本としてもしっかりした景気対策を打ち出すべきだと考える。

その理由の第一は、需給ギャップの悪化への備えである。2001年末に5%、25兆円もあった供給超過は2002年から2007年までの6年間に及んだ景気拡大により、ゼロまで戻すことが出来た。しかし、2008年度は0.7%の実質成長しか見込めず、潜在成長率を年1.7%とすると、2008年度末には、需給ギャップはマイナス1%程度に悪化するものと見られる。もし、2009年度も0%台の実質成長率が続くと、マイナス2%まで悪化してしまう恐れもある。こうなると、デフレからの脱却期待が一転、デフレ不況の再来懸念となってしまう。

第二は、欧米ほどではないが、サブプライムローン問題が信用市場の悪化に繋がってきていることである。昨年まで東京の不動産市場に潤沢な信用をつけていた欧米投資銀行が一気に引いてしまい、不動産信用の冷えこみは想定以上となっている。

その意味で、政府が先の経済対策で、不動産関連も含め中小企業の資金繰り支援に9兆円ほどの事業費を用意した点は妥当であるし、一部にバラマキ批判がある定額減税も赤字国債の発行ではなく、特別会計の剰余金の一部を使う形で、2兆円程度実施しても私は良いと思っている。全部消費に回らないとしても、GDPを0.2-0.3%は押し上げよう。と同時に、企業経営者のビジネスマインドの改善を狙い、投資減税も検討されて良いのではないか。

だが同時に、重要なことは、こうした短期対策だけにとどめず、中長期の成長戦略も打ち出すことだろう。たとえば、森政権の時には、IT戦略会議を立ち上げ、日本のブロードバンド化に力を入れ、成長力の強化に一定程度成功した。

今度は太陽電池、電気自動車などの環境ビジネスの普及、拡大に関連予算を投入し、税制面での後押しも考え、成長力を強化したらどうか。また、地方再生の切り札として、「観光立国」を掲げ、羽田空港の国際化や成田空港と羽田空港のアクセスの改善に公共投資予算をつぎ込んだらどうだろうか。2007年の外国人旅行客の日本訪問は835万人。フランスの7,900万人(ただし2006年)の10分の1に過ぎない。この10月に国土交通省の外局として観光庁が出来るのを機に、地方の観光資源を磨き、地方に外国人旅行客を受け入れることを真剣に考えることを勧めたい。

さらに、懸案の東京金融センターの強化にも力を入れるべきだ。貯蓄から投資への流れは、ここに来て止まってしまっている。昨年末の税制改正の中で、わが国の貯蓄から投資への流れはまだ定着しておらず、2009年以降も譲渡益や配当への10%の軽減税率維持を続けるべきだと要望したが通らず、軽減税率の原則廃止と、2010年までの経過措置として、譲渡益500万円以下、配当100万円以下の軽減税率の部分適用となった。

しかし、日経平均株価は11,000円台(9月18日時点)まで低下し、個人投資家の投資意欲は萎えている。また、このままで行くと、株安から年金財政の再度の悪化も懸念される。年末の税制改正で、今一度上限なしの軽減税率の維持と簡素な証券税制を求めたい。外国人投資家にも良いメッセージとなるだろう。

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