収益寄与大きい新興国経済のダイナミズム

巻頭言2010年春号

野村證券金融経済研究所 経営役・チーフリサーチオフィサー 海津 政信

1年ほど前、新興国経済の成長は、日本企業の収益にプラスになるのか、ならないのかという論争があった。悲観派は、金融危機後の世界経済の中で、中国など新興国の経済が成長するとの見通しは正しいが、安値競争で、日本企業が利益を上げるのは至難だと主張した。それに対し、我々は、新興国はいつまでも貧しいわけではなく、急速に台頭する中間所得層向けやインフラ投資向けに適切な価格で製品・サービスを提供すれば、日本企業も十分に利益を上げることができると反論した。1年経って、我々の主張が正しいことが証明されつつある。

まず、日本企業の収益動向を、主に東証上場の主力企業400社で構成されるNOMURA400の企業収益の動きで見てみよう。NOMURA400(除く金融)の経常利益は、2009年6月から2010年3月まで4四半期連続で上方修正となり、2009年度は当初の減益見通しが、7.4%経常増益見通しとなり、同時に2010年度は57.9%増益見通し、2011年度は22.6%増益見通しと回復が本格化する形となっている。

これは、リーマンショック後の危機の中で、固定費の削減などスリム化に努めた効果もあるが、主に中国経済のV字回復やアジア経済の力強い回復を受け、中国・アジアの資本財、消費財ビジネスが拡大し、それ向けに日本から中間品・部品・材料輸出が大きく伸びている点が大きいのである。

たとえば、中国の自動車生産は、小型車取得税の減税策もあり、2009年に前年比48%増の1383万台を達成したが、2010年も1500-1600万台、2011年も1600-1700万台へと拡大する見通しである。日本の自動車メーカーは中国乗用車市場で20%のシェアを持っており、この市場拡大を享受し、収益を伸ばしている。また、中国液晶テレビ販売も2009年度推定で前年度比91%増の2650万台に達し、2010年度には同41%増の3750万台まで拡大する見通しにある。日本企業は大型液晶テレビで収益を上げているし、液晶ガラスや光学フィルムなど、基幹部品で高い利益率を出している。

もちろん、市場が予想以上に成長していることが、供給過剰を防ぎ、収益を上げ得ている大きな理由だが、3月中旬に中国に出張し、日本企業の活動を調査する中で、昨年暮れに出版した「脱ガラパゴス戦略」で主張した新興国の中間所得層市場攻略のカギである3つのキーワード、(1)日本製品への憧れを活用、(2)現地ニーズへの即応、(3)製品開発を含めた現地化の徹底が、行われていることも小さくないと感じた。たとえば、大手家電メーカーの3G携帯電話でのブランド戦略、開発部隊の現地化戦略がそうであるし、大手百貨店での30歳代の女性キャリア層に的を絞った製品、店舗戦略の成功などが具体例として挙げられる。

最後に、今年2月、中国政府は、金融危機以前の輸出重視の経済発展戦略を見直し、今後の発展戦略として、(1)消費を中心とした内需拡大、(2)社会保障改革や医療制度改革などの民生重視、(3)労働集約から技術・資本集約への産業構造の高度化の3つを打ち出している。環境技術や各種サービス展開などで協力しつつ、13億人の人口ボーナスを持つ中国市場をさらに開拓し、日本企業の成長の糧にしていくことが重要だと考えている。もちろん、インド、インドネシアなど中国に次ぐ市場への展開も引き続き重要だ。

日本企業の収益回復・拡大を導く新興国経済のダイナミズムに改めて注目したい。

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