リスク資産重視の投資戦略-チャンスと課題

巻頭言2011年新春号

野村證券金融経済研究所 経営役・チーフリサーチオフィサー 海津 政信

2011年は、日米の株式などリスク資産重視の投資戦略が有効なように思う。

第一に、世界経済は10年半ばから後半の中だるみを徐々に脱し、再びモメンタムを回復しよう。中国を中心に新興国経済は引き続き強く、政策効果の剥落や在庫投資の一巡で減速感の強かった米国経済も持ち直してくるからだ。FRB(米連邦準備制度理事会)による量的緩和(QE)政策第二弾がもたらす株価上昇による資産効果とブッシュ減税の富裕層まで含めたフル延長の効果が特に大きいだろう。11年の米実質GDP成長率は3%程度に達する見通しだ。日本経済も足下は低調ながら、間もなく、米中経済を先導役に輸出の回復が始まり、10年度補正予算も効いてこよう。11年度の実質GDP成長率は堅めに見ても1%台前半は確保されよう。

第二に、景気のモメンタムの回復は、企業収益の上方修正傾向につながろう。特に、日本株の場合は景気敏感な性格を持つ製造業株の比率が高く、その傾向が強いと言える。また、円が1ドル=80円をピークに年後半に掛けてやや円安に向かうとこれもプラスに作用しよう。

第三に、FRBや日銀のQE政策により、株式のリスクが取りやすくなろう。たとえば、日銀はETF(指数連動型上場投資信託)などのリスク資産を買入れ対象に加え、投資家がリスクを取りやすい環境を作ろうとしている。この日銀のスタンスの変化は、法人減税の実現とともに、外国人投資家の日本株への厳しい見方を好転させるキッカケになりうる。

もちろん、投資にはリスクは付きもので、次のリスクには留意しなければならないだろう。第一のリスクは、欧州の財政危機がスペインなど欧州の主要国の一角に波及する懸念だ。欧州の政策当局の手腕が度々試されるように思う。第二は、新興国のインフレリスクとそれを抑えるための利上げ政策の遂行である。

その意味では、2011年は欧州株と新興国株にやや慎重なスタンスが望まれる一方、景気・物価情勢と金融政策の両面から、日米株には強気スタンスが取りやすいだろう。特に、出遅れ感が強く、日銀のスタンスが変わった日本株への期待が強い年となりそうだ。

課題は、2011年だけではなく、継続的に日本株に前向きなスタンスがとれるかということだろう。最大の論点は、デフレからの脱却が可能か、その時までに財政再建にメド、がつけられるか。また、日本企業が国際競争力を維持し、成長を続けられるかだろう。

まず、デフレからの脱却だが、人口が減少する中、重要増は見込めず困難との認識が多いが、日銀の政策スタンスが変わったし、供給力も鈍化するので、アジアの成長を輸出を通じて取り込めば、2013年以降にはなろうが可能だと考える。

問題は、この後の論文「中期経済見通し2011」で分析しているように、デフレからの脱却時に財政再建のメドがついていないと、長期金利の急騰に見舞われるリスクが高いことだ。その意味で、デフレ脱却と財政再建はほぼ同時並行で進めなければならない。

一方、日本企業が国際競争力を維持し、成長を続けられるかも重要だ。

最大のカギは、この欄で繰り返し述べてきたように、新興国での中間所得層の莫大な消費需要の取り込みに成功できるかどうかだろう。そのためには、技術開発に加え、スピード感のある経営、ニーズにあったもの作り、豊富な手許流動性をM&Aや設備投資に生かすことなどが求められる。

もちろん、ここでも政府の役割は大きい。新興国での原子力発電、高速鉄道、上水道などの有望なインフラ需要を取り込めるように、外交面、資金面から企業を後押しすることが重要だ。さらに、為替の安定、韓国との競争で遅れがちなFTA(自由貿易協定)等への取り組みが急がれる。

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