期待される新金融・財政、成長戦略

巻頭言2013年新春号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー兼アドバイザー 海津 政信

昨年12月の総選挙で民主党中心の連立政権から自民・公明の連立政権に再度政権交代が起きた。中道左派政権の多いリーマンショック後の世界の政治潮流からすると独自性のある展開だが、民主党が国民の期待に応えられなかったこと、また、自民党は米国共和党や英国保守党に比べれば中道に近いこと、英米で成果がでている量的緩和政策を強化すべきと主張したのが自民党であったことなどが、関係しているように見える。今号では、新政権スタートに合わせ、期待される経済政策について新たな視点も加え述べてみたい。

まず、衆議院選挙の争点となった金融政策について、政策金利がゼロ近くになったら金融政策は殆ど効かないとのかつての常識は、バーナンキ議長率いるFRB(米連邦制度理事会)による量的緩和政策が成果を挙げたことで変わってきている。すなわち、FRBがバランスシートを拡張する形で市場から国債やMBS(住宅ローン担保証券)などの資産を買入れ、住宅ローン金利を下げて住宅市場の回復に繋げ、また、供給した流動性が株式市場に流入し、株価が上昇しその資産効果で消費を支えるなど、大きな成果が出ている。

米大統領選挙でも、このFRBの政策を支持したオバマ大統領が、量的緩和政策に反対した共和党のロムニ一候補を破っている。今回の衆議院選挙で量的緩和政策の強化を主張した自民党が勝利したことから、今年4月に任期満了を迎える日本銀行の新総裁に、2%の物価目標の導入や量的緩和政策の強化による円高是正と資産価格上昇に積極的な候補が指名されるものと期待される。

もちろん、財政政策によりGDP(国内総生産)ギャップを縮小させ、円高是正と合わせ、物価環境を好転させることも大事で、この観点から新政権は公共事業中心の大型補正予算の編成にも取り組んでいる。公共事業というと、すぐに無駄なものとの先入観があるが、私は大震災によって、国民の公共事業を見る目は変わったと考えている。すなわち、防災、免災等に資する公共事業は行って良いという考えだ。代表例は新東名高速道路だろう。震災後は、いずれ来る東海、東南海、南海の三連動地震を考えると、東京名古屋聞の大動脈はもう一本あって良く、必要な公共事業との認識になっていよう。同じように、首都圏の高速道路、鉄道なども、首都圏直下型地震に耐えられるように、防災対策を急ぐ必要がある。

さらに、長期的に重要なのは、産業競争力の強化、TPP(環太平洋経済連携協定)などの経済連携の推進、イノベーションを軸とした成長戦略である。産業競争力の強化で言えば、産業革新機構等を活用した半導体、液晶などの再生戦略がある。産業革新機構によるルネサスやジャパンディスプレイへの出資やビジネスモデルの再構築支援はその代表であり、こうした活動がさらに強化されることが期待される。

また、アジア太平洋経済圏の取り込みのため、TPP交渉への参加が欠かせない。遠からず行われる日米首脳会談で交渉参加を表明することが期待される。また、ベトナム、ミャンマ一等へのODA(政府開発援助)供与を活用した経済外交も重要だ。さらに、ロシア極東での資源・エネルギー開発への協力もあろう。

イノベーションを軸とした成長戦略では、医療・介護ビジネスを成長市場にすべく、iPS細胞の応用研究に研究開発費を重点投入することや介護機器(含む介護用ロボット)市場を成長させるための保険適応の拡大、さまざまな規制改革などが求められよう。また、環境・エネルギー分野での技術開発、市場育成なども必要だろう。

具体的には、電気自動車の普及促進のためのインフラ作り、自然エネルギーの活用に欠かせない住宅、ビル、病院用の蓄電池の高度化、低コスト化などが挙げられる。さらに、技術開発力がありながら、十分な海外展開が出来ていない企業を支援するためのグローバル人材の育成等も検討されて良い。

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