リスク資産投資に目覚める国内投資家

巻頭言2014年新春号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー兼アドバイザー 海津 政信

2013年の金融市場では、アベノミクスの進展から円安を伴い日本株が大きく上昇したほか、住宅市場の回復やシエール革命を評価して米国株、景気底打ちのシグナルで欧州株が上昇した。その一方、景気減速や米国の量的緩和縮小に伴う資金流出懸念等から、新興国株は冴えず、景気回復、株高を受け、米国債も軟調だった。

さて、2014年はどうなるか?我々は引き続き、先進国景気の回復、拡大を見込み、日本株、米国株、欧州株の上昇を予想している。一方、新興国株はかなり調整が進んだが、景気の力強い回復はまだ視野に入らず、多くの国で大統領選挙や総選挙が予定される等の政治面の不透明感もあり、限られた国への選別投資に注目するに留めている。

また、先進国の債券は、景気回復、株高を予想する中、軟調を見込んでいる。以下、有望と見る日本株、米国株、欧州株の順に見ていこう。

まず、日本株である。14年4月に消費増税が予定されているが、対GDP(国内総生産)比0.9%超(14年度のみでは0.6%)の大型経済対策が13年度補正予算として14年2月には成立し、対GDP比0.7%に達する増税の悪影響をほぼ吸収しよう。また、米国は量的緩和を縮小する一方、日本は量的緩和を追加、強化する方向にあり、14年末、1ドル=110円ないしそれをやや越える円安が見込まれ、企業業績の上方修正に結びつこう。これを受け、日経平均株価は14年末には18000円ないしやや上回る水準まで上昇することを期待している。自動車、電機、機械の輸出株、建設・不動産株、Jリート(不動産投資信託)、金融株などが有望だろう。

次いで、米国株だが、SP500株価指数、NYダウともに07年の高値を上回っており、日本株ほどの上昇は見込めないが、まだ市場が織り込む企業の中期利益成長力は07年当時までは行っていない。それを追加的に織込むと、SP500指数は1900ポイントまで上がる余地があると見ている。米10年債が3%台に乗せれば、ドル債投資も良いだろう。

さらに、欧州株であるが、米国景気の回復と金融緩和策により、14、15年と欧州景気も循環回復が見込まれる。予想、PER(株価収益率)などの投資尺度は割安なので、ドイツ株、イギリス株などが上昇する可能性を見込む。

さて、こういった投資環境の中で、日本の投資家はリスク資産投資をどう進めるのか。個々には、投資家のリスク許容度によるので、幅はあろうが、アベノミクスの進展が、緩やかな物価上昇と賃金上昇に結びつきつつあり、脱デフレの方向にあるので、全体では一定程度進むものと見られる。

たとえば、公的年金の運用を担うGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、昨年11月、政府の有識者会議から国内債券投資に偏った資産運用を見直すよう求められており、国内株式、外国株式・同債券等のリスク資産の運用比率を引き上げることが期待される。基金規模は総額120兆円と巨額であり、国内株式比率が3%上がるだけで、3.6兆円の株買い需要になるだけに、海外投資家からもその動きが注目されている。

また、イギリス発祥の個人貯蓄口座(ISA)を参考に制度化されたNISA(小額投資非課税制度)が今年1月からスタートする。年間100万円までと少額だが、口座数が多いので、相応のインパクトが期待される。

その意味で、企業のIR(投資家広報)も内外の機関投資家を意識したものから、国内個人投資家も意識したものに変わっていこう。アベノミクスが良く工夫されているのは、金融政策、財政政策、成長戦略の3本の矢で、脱デフレ、日本経済、企業の成長力底上げを図るという実物経済の視点だけでなく、金融経済、資産運用にも配慮、が及んでいることだろう。

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