アベノミクスへの期待を呼び戻す政策等が不可欠

巻頭言2014年春号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー兼アドバイザー 海津 政信

今年に入り、株式市場が冴えない動きを続けている。1~2月の株価調整は、中国の理財商品のデフォルト懸念や異常寒波の直撃を受けた米国景気の下振れ懸念が背景にあり、米国株を含む世界株安であった。しかし、3月以降の株安は米国株が高値圏にある中での日本株安であり、4月からの消費税引上げによる景気下振れ懸念に加え、日本銀行の追加緩和や政府の成長戦略に対する投資家の不安等が背景にあるように見える。

実際、昨年、現物、先物合わせて15兆円以上買い越した海外投資家は今年年初から3月1週までで1兆6000億円の売り越し、また、年初大きく買い越した個人投資家も2月後半以降は様子見に転じている。その意味では、アベノミクスに対する投資家の期待は後退しており、その期待を呼び戻すことが欠かせないだろう。

具体的には、以下の3つのことを4月以降夏までに、順次実現していくことが望まれる。

第1は、日本銀行による追加金融緩和である。確かに日本銀行が主張するように、消費者物価は足下前年比1%台前半まで上昇し、2%の目標に対し順調に来ているように見えるが、日銀の13年度の実質GDP(国内総生産)成長率予想2.7%は、昨年10~12月の前期比成長率が、外需不振で年率0.7%にとどまったことで、その達成が難しくなっている。需給ギャップの縮小の遅れは物価目標2%の達成時期を遅らせよう。その意味で、量的・質的金融緩和の時間軸を延ばし、かつ、リスクプレミアムの縮小を再度促すために、ETF(上場投資信託)などのリスク資産の買取りを増やす追加緩和が必要だ。

第2は、政府による成長戦略の強化である。女性の活躍を促すための諸施策やビザ発給の弾力化による海外からの訪日客の増加、首脳外交も交えたインフラ輸出の拡大なと、進みつつある分野もあるが、法人税改革や岩盤規制の緩和など遅れている分野もある。6月の成長戦略改定の目玉として、法人実効税率の引下げを実現し、岩盤規制の緩和についても着実に進めることが欠かせない。

第3は、公的年金の運用を担うGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の日本株運用比率の引上げである。物価目標2%の達成を視野に入れると、中長期の日本企業の利益成長力は高まろう。その点をポートフォリオ運用に反映させるとすれば、日本株の運用比率は高まる方向だ。現在16~17%の日本株比率を20%程度まで引き上げることが望まれる。

もちろん、政策対応だけでなく企業の経営努力も必要だ。その意味では、今春闘でのベースアップの実現は前向きな動きとして評価されよう。人手不足を背景とした非正規社員の賃金上昇も見られ始めており、相乗効果が期待される。

加えて、企業経営者に求められるのが、ROE(自己資本利益率)の引上げだ。JPX日経インデックス400の考え方も踏まえ、10%以上のROEを多くの企業に目指してもらいたい。事業の選択と集中、ビジネスモデルの改善・強化など、事業戦略はもちろんだが、自社株買いや増配による自己資本の管理など、財務戦略も重要である。

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