夏以降期待されるアベノミクス相場の再来

巻頭言2016年夏号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

春号のこのコラムで、「アベノミクス成功に向け、G7協調の下で政策総動員」と書き、伊勢志摩サミット終了後に、安倍首相は消費再増税を2年程度延期するのではないかと予想したが、幸い、ほぼその通りとなった。それでは、いつ頃からアベノミクス相場は再来するのか。今回はこの点について、私見を述べてみたい。

アベノミクス相場再来の条件は、二つある。第一は、米国経済が昨年秋から今年春にかけての低成長を脱し、再び年率2%成長を取り戻すこと。今年2月の上海でのG20(20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議前後から、米財務省はドル高容認姿勢を修正し、FRB(米連邦準備制度理事会)は金融政策をハト派化し、ドル安、原油高、米株高を追求してきたが、4~6月以降その効果が出てきたように見える。

4月、5月と消費者心理は好転し、小売売上が2カ月連続で大きく増加、4~6月の実質GDP(国内総生産)成長率は年率2%台に乗せてくる見通しだ。5月の雇用統計で、非農業部門の雇用者増が通信会社のストの影響等もあり前月比3.8万人増にとどまったため、FRBは6月の利上げを見送ったが、6月以降の雇用動向を見極め、商業用不動産市況の上昇を警戒する地区連銀総裁からの要請も受入れ、9月までには利上げに動く公算がある。これは行過ぎたドル安に歯止めをかけ、円の安定に繋がろう。

第二は、日本政府による財政出動と日本銀行による追加緩和で日本経済が景気の踊り場を脱することだ。財政出動は伊勢志摩サミットでの合意を受けたもので、参議院選挙後の臨時国会に補正予算として提出され、成立後速やかに実施されよう。真水でGDP比1%に当たる5兆円以上の規模が期待される。

また、日本銀行の追加緩和は7月か9月に、マイナス金利の引下げ、貸出支援オペ拡充と適用金利のマイナス化、ETF(上場投資信託)の買入れ額の増加といった形で行われると予想している。

この条件二つが揃うと、アベノミクス相場は再開され、2016年末日経平均株価19,000円、17年年央以降20,000円台回復が見えてこよう。上場企業の収益は、資源安一巡と政策対応で15年度下期を底に回復に向かい、17年度下期には15年度上期の半期ベースの過去最高利益を更新する見通しにあるからだ。

ただし、為替前提は1ドル=108円。日銀の追加緩和ないしFRBの利上げのどちらかないし両方が揃わないと為替は安定しないので、アベノミクス相場の再来にはなお多少の時間がかかるだろう。

最後に、アベノミクスについて、成長戦略が機能していないとの評価がエコノミストや学者・ジャーナリスト、時に経営者からも聞こえてくる。しかし、法人実効税率を3年間で37%から29%台まで下げたこと、ビザ発給要件の緩和等で外国人訪日客を短期間に2000万人まで増やしたこと、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉の合意を実現したことは評価すべきだろう。

もちろん、少子化対策等不十分な施策はある。特に、社会保障費の財源は消費再増税を延期したことで手薄になるが、税収は大方の想定を上回って拡大している。これを次の再増税実施まで活用し、少子化、介護施策を行えば良いのではないか。

それから、成長戦略の担い手は民間企業でもある。コーポレートガバナンス・コードに則り、余剰資金を設備投資や研究開発、さらにM&A(合併・買収)等に活用し、積極的に売上、利益の成長やROE(自己資本利益率)の向上を目指すことが欠かせない。潜在成長力の引上げは政府の役割であると同時に経営者の役割でもある。外国人投資家を呼び戻し、アベノミクス相場の再来を持続性あるものにするには、経営者の役割もまた重要であると強調したい。

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