米トランプ政権誕生と資産運用

巻頭言2017年新春号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

2017年1月20日の就任式を経て米トランプ政権が発足する。国務長官にエネルギー企業のトップを起用するなど異色な人事もあるが、財務長官や商務長官など経済閣僚にはウォール街出身者が起用され、一定の安心感はあると見る。

法人減税、インフラ投資などの中身が分かるには、政権発足後相応の時間が必要だが、金融市場の反応をみると、財政拡張策で実質GDP(国内総生産)成長率を年0.3-0.5%ポイント程度引き上げることが期待されているように見える。そして、米長期金利の上昇は、日本銀行が長期金利を10年国債利回りでゼロ近傍に釘付けしているので、ほぼ自動的に日米長期金利差を拡大させ、為替市場でのドル高、円安に繋がっている。

ドル高、円安は言うまでもなく、日本の輸出企業の収益を押し上げるため、輸出企業の利益、時価総額が40%前後を占める日本株の上昇要因になる。かくして、トランプラリーでは、日本株の上昇が目立っているのである。

もちろん、トランプ政権は保護主義、移民規制といった負の側面も合わせ持つ。しかし、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉で、メキシコから米国への自動車輸入に関税をかけると言っても、最大の担い手はGM等の米ビッグ3であり、日本の自動車メーカーではない。自ずと限界がありそうだ。

移民規制も過激に行えば賃金上昇加速に繋がる、長期の米国経済の潜在成長率を押し下げる、などが懸念される。それがゆえに、過激に行うことはあまり考えにくい。金融市場は不透明感を抱きつつもこう考えて、財政拡張効果が勝るとの判断でいる。

加えて、中国政府の財政出動により資源市況に大きな影響を与える中国経済が安定し、OPEC(石油輸出国機構)の減産合意もあり、原油を始め資源市況が上昇傾向を見せている。物価上昇率は徐々に高まる流れにあり、16年とは逆に、17年は債券より株式が選好される年になろう。

そして、株式の中では日本株が優位にあると見られる。なぜなら、(1)円安の中で収益の上方修正期待が高い、(2)日本銀行が物価目標2%を実績値で達成するまで緩和政策を継続するとしているからだ。17年の日経平均株価は、15年6月の高値20,868円を更新し、22,000円近くまで上昇する可能性があろう。

その際、政策面で留意しておくべきは、米国の法人税引下げと連動しての日本の法人実効税率の引下げ、IoT(モノのインターネット)等の技術革新の促進策、農業、労働法制、介護・医療分野での規制改革だろう。

日本株以外では、米国株に投資妙味があろう。第1に、好調な個人消費や住宅投資に加え、17年後半から18年にかけて財政拡張の景気押上げが期待される。第2に、景気要因に加え、原油市況の回復で米企業収益の拡大が見込まれる。第3に、増配、自社株買いなどの株主還元策への期待もある。もちろん、金利上昇とドル高が過度に進むことには留意が必要だ。米企業収益の抑制要因となるからである。

新興国株はどうか。米国景気の加速、原油等資源市況の上昇は、新興国にとっても好材料ではある。ただ、米国への資金流出、通貨安、通貨防衛のために利上げとなると難しい側面も出てくる。その意味で、選別の視点が必要だろう。構造改革の進展しているインド等が通貨も安定しており、比較的良好とみられる。

最後に政治面に触れておきたい。まず次期衆議院選挙だが、可能性が高いのは17年初か17年秋以降のどちらかだが、17年中に行われるのはほぼ間違いないと言えよう。ここで安倍首相が勝利すると更なる長期政権が手に入る。アベノミクスの先行きに関わる重要な政治イベントとなろう。次いでフランス、オランダなどで反EU(欧州連合)を掲げる極右政党の台頭がありうる。ただドイツが財政拡張に転じ、ユーロ圏の景気をけん引すれば、人々の不満はかなり抑えられ、局面は変わりうる。リスク、チャンス両面で考えておくべきだろう。

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