稼ぐ力を強める日本企業

巻頭言2017年春号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

安倍政権が進める財政、金融、成長戦略の3本の矢のアプローチが徐々に奏功し、為替の安定等をテコに日本の立地競争力が改善し、雇用増が進む一方、失業率が下がり賃金の上昇から緩やかな物価上昇が見込まれる環境になってきている。加えて、コーポレートガバナンス(企業統治)改革が機能し始める中、日本企業の稼ぐ力が強くなってきているのは確かだ。

まず、数字を確認しよう。ラッセル/野村大型株ユニバース(335社)の連結経常利益は16年度推定で41.1兆円と16年度下期からの回復により、15年度をやや上回り、過去最高利益となる見通しだ。このうちラッセル/野村大型株ユニバース(除く金融)の連結経常利益は33.7兆円で15年度を2%ほど上回る予想である。

一方、16年度の除く金融の売上高は463.2兆円で前年度比4%ほどの減少が予想されている。すなわち、16年度は減収、増益決算となる見込みである。16年度の円ドルレート(平均)は1ドル=108円と見られ、15年度比12円の円高で円換算の海外売上、海外利益は減少が避けられない。そのもとで小幅とはいえ、増益になることは、収益体質が強くなっている証であろう。どのような点が奏功しているのか。

第1は、事業の選択と集中が効いてきていることだ。たとえば、素材産業では鹿島、水島コンビナート等でのエチレンプラントの縮小がある。このため、アジアの需要が回復する中、エチレンの稼働率が高まり、利益の上振れに繋がっている。また、加工産業では競争が激化しているPC、テレビ、携帯端末等から撤退ないし縮小し、エアコン、大型冷蔵庫等の白物家電、昇降機、高速鉄道等の社会インフラや蓄電池等車載用部品に力を入れ、収益性を回復させている。

第2は、多角化した海外事業が世界景気の回復、販路の拡大、リストラの成功などで利益を生むようになってきた。塩ビ・高機能樹脂、炭素繊維、FA(ファクトリー・オートメーション)機器、電子部品、タイヤ、自動車部品、タバコ・酒類、加工食品、化粧品・紙おむつ、通信、銀行、証券等数多くのセクターで海外事業の収益性改善、向上が確認できる。

第3は、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、リニア新幹線、再生医療などの技術革新、インターネット通販の拡大、20年の東京オリンピック、パラリンピックに向けての都市再開発など新たな需要創造が利益成長に結びつく動きもある。典型的には、半導体・電子部品、半導体製造装置のブーム的な拡大、大型ビル、ホテル、流通倉庫など建設・不動産分野の好調などだ。

最新の野村のアナリスト予想によれば、ラッセル野村大型株で構成される主要上場企業の連結経常利益は、1ドル=114円の為替前提の下、17年度に46兆円、18年度には50兆円程度に達する見通しだ。株価は概ね1年先の企業業績を織込み形成される。17年度末の日経平均株価21,000円台が想定される。

もちろん、留意点は欧州政治、朝鮮半島情勢などいくつかある。中でも当面の関心事はフランス大統領選挙(第1回投票:4月23日、決選投票:5月7日)であろう。EU(欧州連合)残留・離脱を問う国民投票の実施やユーロに代わる独自通貨の発行を主張する右派の国民戦線のルペン党首が当選しないかどうか。可能性は小さいと思うが、結果を見たいと言う投資家は多い。

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