人口減少を超克する女性活力のインパクト

論文2008年夏号

野村證券経済調査部 和田 理都子

目次

  1. I.はじめに
  2. II.人口減少社会の現状
    1. 増加の100年、減少の100年
    2. すでに使い果たした「前借り給与」
    3. 人口減少下で「担い手」を増やす
  3. III.潜在的労働力率の顕在化に向けて
    1. 人手不足はいつ顕在化するか
    2. 二者択一を迫られる就業と家庭生活
    3. 「潜在的労働力率」という指標
  4. IV.女性の労働参加のインパクト
    1. GDPの観点から女性の就業を捉え直す
    2. 消費拡大効果を計る
    3. 「家事の外部化」効果
  5. V.女性の労働市場の現状と課題
    1. 働く女性の半数以上は非正規雇用者
    2. 賃金水準は標準化と二極化が同時進行
    3. 拡大する二極化傾向
    4. 求められる労働市場改革
  6. VI.おわりに:共働き先進国に学ぶ

要約と結論

  1. 人口という日本の構造問題は、20世紀は増加の100年、21世紀は人口5000万人に戻る減少の100年と捉えられる。人口増加時の高い経済成長や社会保障制度の成熟は、裏を返せば続く減少の100年の「給与の前借り」的側面を有していた。前借り給与分を使い果たした中で超高齢社会に踏み出す日本にとって重要なのは、女性の労働市場への新規参加を推進し、経済社会の担い手を増やすことであろう。
  2. 現状の労働力率のまま推移する場合、経済規模の拡大がなくても2014年には労働力不足に陥ると推計される。無職の女性のうち就業希望者が労働市場に参加すれば(潜在的労働力率)、この期限を2027年まで13年延ばすことができる。しかし、多くの女性が「就業か家庭生活か」の二者択一を迫られているのが現状である。
  3. 仮に今後10年かけて女性の潜在的労働力率が達成されたとすると、2つの経路で縮小が懸念される日本経済を牽引すると期待される。第一が家計の消費力の拡大効果である。有業者1人の専業主婦世帯が減少し共働き世帯が増加することで、10年後の消費を1.4兆円規模で下支えする。第二が家事の外部化を通じた新たなマーケットの創出効果である。専業主婦世帯と共働き世帯聞の一日あたり2時間47分の家事時間の差が、財・サービスの購入という形で置き換えられる場合、10年後には14兆円の家事関連市場が創出され、GDPを7.7兆円押し上げると推計される。
  4. 女性の就業者は非正規雇用者が正規雇用者を上回った。育児期を境に正規雇用から非正規に変わる傾向が強く、両者聞の賃金格差の拡大が「出産・離職」の機会費用を大きくしている。先進諸国には女性の高い労働力率と出生率の反転上昇を実現した国もある。人口減少時には人口増加時と同じ成長手法は当てはまらない。「夫婦共働きで無理なく子育て」できる環境整備に向けた早急な改革が求められる。