直接投資流入にみるラテンアメリカ経済の構造変化
論文2008年夏号
野村證券金融経済研究所アジア調査部 佐野 鉄司、野手 朋香
目次
- I.はじめに
- II.耐性が増すラテンアメリカ経済
- III.90年代以降の通貨危機の背景
- IV.国際収支構造の変化
- 資源高を背景とした直接投資
- 輸出基地としての直接投資
- V.政策信認の確立
- スプレッド拡大のペースに格差も
- インフレターゲット政策の導入
- 財政規律の強化
- 市場メカニズムの重視に伴う直接投資
- VI.政府の市場介入を伴う経済政策
- ベネズエラの資源ナショナリズム
- アルゼンチン政府の市場介入
- VII.資本蓄積による潜在成長率押し上げ
- ラテンアメリカの成長の源泉
- ブラジルの経済成長の要因分解
- インフラ整備が成長率を押し上げ
- VIII.各国における米国景気の影響
- IX.おわりに
要約と結論
- ラテンアメリカ諸国への資金流入が加速している。鉱産資源や農産物に恵まれた同諸国では、数年来の資源高に加え、対外開放政策の進展に伴う輸出基地としての位置づけにより、資金流入形態は直接投資が主体となっている。直接投資の流入に伴い、ラテンアメリカ諸国の国際収支は改善しており、90年代のような急激な資金流出を伴う危機につながる可能性は低くなっているとみられる。
- ラテンアメリカ各国が直接投資を呼び込む上では、政策信認の確立が不可欠であった。政策信認の根幹を成す主要因として、(1)インフレターゲッ卜政策によるインフレ抑制、(2)財政規律の強化、および(3)市場メカニズムの重視、といった3点が挙げられる。こうした政策信認を高める要件を満たすメキシコ、ブラジル、チリなどの国々へは、資金流入が顧著となっている。
- 直接投資は資本蓄積を促し、潜在成長率の押し上げに寄与する可能性がある。資本蓄積が進めば、ラテンアメリカ諸国はより高く持続的な経済成長の軌道を描くことが可能となろう。市場メカニズムに基づく改革を進めたメキシコやブラジルでは、海外資本の導入による資本蓄積が進む公算が大きい。一方、政府による外資規制や輸出規制を強めているベネズエラやアルゼンチンでは、足下の原油高や食料品価格の上昇による恩恵を十分に享受できず、資本蓄積が見込みにくい状況が続いていると見られる。