ヘッジファンド投資の現状と最近の議論

論文2009年新春号

野村證券金融工学研究センター 大庭 昭彦

目次

  1. I.はじめに
  2. II.ヘッジファンド投資の特徴としくみ
  3. III.バラエティに富むヘッジファンド投資戦略
    1. エクィティヘッジ ~余分なリスクをとらずにアルファを狙う
    2. イベントドリブン ~イベントに賭ける
    3. マクロ ~世界の動きに賭ける
    4. レラティブバリュー ~相対価値で投資する
    5. ヘッジファンド投資戦略周期表
  4. IV.ヘッジファンド投資に潜む流動性リスク
  5. V.パフォーマンスの決定要因と複製の試み
    1. ヘッジファンドパフォーマンスに内在するベータリスク
    2. ヘッジファンドパフォーマンスの複製
    3. ヘッジファンドレプリケーション投資の有用性
    4. ヘッジファンドレプリケーションの実際
  6. VI.まとめ

要約と結論

  1. ヘッジファンドは過去20年近くで残高やファンド数を大きく増大させ、2007年末には世界で200兆円程度の規模に達した。一方、2007年以降拡大してきたサブプライムローン問題などにより、2008年に入って状況は激変しており、ヘッジファンドの資産も大きく毀損した。
  2. ヘッジファンドへの規制問題が米国で再燃しており、ヘッジファンドの経営層が自主的なガイドライン作成のために作ったHFWG(ヘッジファンドワーキンググループ)は、運営ガイドラインの強化を模索中である。そこでは特に「リスクの管理」が重視されている。こうした中で、ヘッジファンドパフォーマンスの決定要因の分析結果を基にした、新しい投資手法が生まれて来た。
  3. ヘッジファンドの基本的な戦略は絶対リターンをとることである。ところが実際のパフォーマンスを分析することで、個別のファンドがアルファのみを狙っていても、パフォーマンスを平均してみるとベータで説明される部分がほとんどになることがわかってきた。
  4. このベータ部分だけを模倣する商品への投資も可能になってきており、従来資産のパッシブファンドの様に使うことが期待されている。
  5. ヘッジファンドがオルタナティブ投資の一つとして今後も成長していくためには、金融危機を乗り越えるための市場整備の進展と利用者側の利用方法の進化がカギとなってくるだろう。