水不足問題と水関連ビジネス
論文2009年春号
野村證券金融経済研究所企業調査部 宮地 邦治
目次
- I.はじめに
- II.深刻化する水不足問題
- 水不足の現状
- 水の需要とその拡大要因
- 地球温暖化による水資源への悪影響
- 水不足の予測
- 世界的な取り組み
- III.水関連ビジネスの4分野
- 生活用水と工業用水
- 農業用水
- 海水淡水化
- 水のリサイクル
- 水関連ビジネスの全体像
- IV.日本企業と水関連ビジネス
- V.おわりに
要約と結論
- 水は人間にとって必要不可欠な存在であるが、地球上で利用しやすい淡水の量は限られている。今後、世界の人口増加などにより水の需要が拡大する一方、地球温暖化で水資源の供給に悪影響が及ぶ模様である。そのため、水不足問題が深刻化する可能性がある。特に懸念される地域は、中東、北アフリカ、インド、中央アジア、中国北部である。
- OECDは、世界34カ国の水関連インフラへの投資が25年までに年間1兆ドルを超えると予測している。こうした水関連ビジネスは、(1)生活用水と工業用水、(2)農業用水、(3)海水淡水化、(4)水のリサイクル、の4つのカテゴリーに分かれる。
- (1)生活用水と工業用水のカテゴリーで市場規模が大きいのは水道事業の民営化に伴うビジネスであり、欧州企業の存在が大きい。(2)農業用水は水利用の7割を占めるため、効率的な利用が求められる。農業機械、肥料、農薬などの利用に加え、遺伝子組換え技術の向上が期待される。米国企業はこのカテゴリーに強みを持つ。
- (3)海水淡水化のビジネスは、今後も中東を中心に拡大する模様である。近年は、蒸発法から膜法に主流が移っている。(4)水のリサイクルは、MBR(膜分離活性汚泥法)という技術により、今後の市場規模の拡大が期待されるカテゴリーである。水質汚濁が懸念される中国が主な市場になろう。
- (3)と(4)は新たな水源から淡水を生み出す技術である。組み合わせれば水不足が深刻な地域でも水の循環システムが構築できる可能性があり、水不足問題における解決の糸口になろう。日本企業が強みを持つのは、水処理膜の技術を使う、まさにこの2つのカテゴリーである。世界各国がインフラ投資を拡大する方向にある状況を鑑みても、今は日本企業が世界で更に活躍できるかどうかを左右する重要な局面にあると判断される。