年金運用における金利スワップの利用
論文2009年夏号
野村證券金融工学研究センター 深澤 弘恵、西村 恵、正岡 康二、山岸 吉輝
目次
- I.はじめに
- II.退職給付会計基準の変遷
- 各国の退職給付会計基準比較
- 世界的なコンバージェンス
- III.年金負債を意識した運用
- 年金負債が抱えるリスク
- サープラスが与える会計上の影響
- IV.金利スワップによる金利リスク調整
- 金利スワップのキャッシュフロー
- 金利スワップの実務
- V.欧米における金利スワップ利用事例
- VI.NOMURA Swap Index
- VII.おわりに
要約と結論
- 退職給付会計基準は世界的に年金負債の時価評価・サープラス(資産と負債の差)の即時認識の傾向にあり、日本においても負債の時価や資産との乖離に対する注目は集まっている。本稿では、2009年度会計から導入される退職給付会計基準(期末時点での割引率の適用)によりモデルPBO(予測給付債務)を算出し、企業年金の平均的な資産配分を仮定した場合の退職給付引当金(積立不足のうち貸借対照表に計上すべき額)を試算した。この結果、退職給付引当金は2003年度以降増加が目立ち、負債対比で15~20%となった。しかし、PBOに近いデュレーション(金利感応度)をもつポートフォリオにした場合、2%ほどとなり大きく減少した。
- PBOのデュレーションを意識した場合、超長期債投資がまず考えられる。しかし現状、超長期債の流通量は短中期債に比べ乏しく、全資産を債券に充当しても必要なデュレーションを確保できるとは限らない。しかも年金財政上の予定利率を考えると、期待リターンがさほど高くない債券に多くの資産を割くことは通常難しい。
- 欧米では超長期債に代わる新たな金利リスク調整手段として金利スワップを検討・利用する動きがあり、市場規模や取引量の観点から日本においても金利スワップの利用は現実的と言える。カウンターパーティ・リスクや担保の管理など債券投資にはない実務上の対応や、市場環境による取引コストの上昇といった留意点はあるが、現状の大きなデュレーション・ギャップを埋める一手段としては有効と考える。
- このような背景から、野村證券金融工学研究センターでは金利スワップのパフォーマンスを表すNOMURA Swap Indexを公表した。時価や債券同様のリスク指標を算出しており、従来の金利リスク管理手法を大きく変更せずとも、金利スワップを加えたポートフォリオのリスク指標を容易に計算できる。さらに、デュレーションがほぼ一定に推移することから、デュレーションをターゲットとしたカスタマイズド・インデックスとしても利用可能である。